第10章 幕間 剣ではない時間
そう言って、自分の口から出た言葉に、アルネリアはハッとした。
“剣としてではなく”――それは、剣以外の時間を過ごす今日の自分とも、重なる響きだった。
「ならば、これなどどうだ?」
不意に声がした。
シードが片手で持ってきたのは、小さな木箱。
中には、香を染み込ませた布がいくつも畳まれている。
「戦の後、鎧の下に仕込むと匂いが和らぐ。……まぁ、兵舎では“贅沢品”だがな」
アルネリアはそっと手を伸ばし、その布に触れた。
指先に残るのは、花のような、しかしどこか鋭さも持つ香気。
“戦”と“休息”の境目のような、不思議な香りだった。
「……これは、少し……良いかもしれません」
「ほう」
シードが笑う。「やっと“剣以外”に興味が出てきたな」
「お前が“興味”などと言うとはな」
クルガンが低く笑い、クラウスも微かに口元を緩めた。
「では、候補の一つとして覚えておきましょう」
クラウスが書きつける。
その後も、街を歩き続けた。
書き物用の硯、上質な茶葉、工房仕立ての小さな杯――
それら一つひとつに手を触れるたび、アルネリアの胸に知らなかった感情が芽吹いていく。