第10章 幕間 剣ではない時間
「何か考えているものは?」
「……正直、まったく」
「では、歩きながら探しましょう。剣が歩むときのように」
クラウスが先導し、街の細い路地を抜けていく。
背後からはシードとクルガンの足音。
剣ではなく、人として歩く道――それがこんなにも穏やかだとは、アルネリアは知らなかった。
***
最初に立ち寄ったのは、装飾職人の工房だった。
細やかな銀細工、真鍮のブローチ、宝石を嵌め込んだ指輪。
どれも美しい。しかし、手に取るたびに彼女の手は止まった。
「……違います」
「どこがです?」クラウスが問う。
「“飾り”は、あの方に必要ではありません」
「なるほど。では、実用性のあるものがよろしいですか?」
次に訪れたのは、書物屋。
戦略論、統治論、史書の山が並ぶ。
アルネリアは何冊か手に取っては、また戻す。
「……これも違います。知識はすでに“あの方”自身が持っている」
「ふむ……では、道具は?」
クルガンが問う。「剣の手入れ具か、防具の補強材などは」
「それも……違います。“剣”としてではなく、贈りたいのです」