第10章 幕間 剣ではない時間
戦場では感じることのなかった小さな感情――それが、胸の奥で確かに芽吹いていた。
広場の中央には、石造りの噴水が静かに水を湛えていた。
そのそばで、書簡の束を抱えた青年が誰かを探すように立っている。
金糸のような髪が陽にきらめき、整った横顔がこちらを向いた。
「アルネリア殿、こちらに」
クラウスだった。
軍略家としてはまだ若い彼だが、聡明な目はいつも確かな目的地を見据えている。
今も、資料を片手に丁寧な一礼を寄越した。
「ご足労をかけました」
「いえ、むしろ楽しみにしておりました。――“剣以外の贈り物”、その選定など滅多にない機会ですから」
「……からかっていますか?」
「まさか」
クラウスは薄く微笑んだ。「私も少し興味があったのです。あの方に“贈り物”が似合うのかどうか」
思わず笑みがこぼれた。
確かに――あの男、ルカ・ブライトという存在は「贈り物」など似合わない。
剣も炎も血も、彼にとっては道具にすぎない。
それでも“何か”を贈ってみたいと自分が思ったのは、きっとあの夜があったからだ。