第10章 幕間 剣ではない時間
「おい」
その声に振り向くと、路地の向こうから大きな影が手を振っている。
「クルガン?」
「合流しろと命があった。……街を歩くのは、護衛がいた方が良いからな」
クルガンの腕には、大きな籠。中には布や革、鉱石など、様々な素材が詰められている。
「何ですか、それは」
「防具用の素材だ。暇なときに作る。心を落ち着かせるには、剣だけが手段ではない」
「……意外ですね」
「鍛冶くらいする」
表情を変えずに言うクルガンに、アルネリアは思わず口元を緩めた。
戦場でしか見ない男たちの“別の顔”が、次々と目の前に現れていく。
「おい、そっちはもう少し先だ」
シードが指差した先に、ひときわ賑やかな広場が広がっていた。
「クラウスも来ているはずだ」
「え? 彼も?」
「お前の“買い物”と聞いて、何か資料を持って来るってよ。真面目なやつだろ?」
「……ふふ、そうですね」
歩を進めるごとに、胸の奥が少しずつ軽くなっていく。
今日は、斬るための一日ではない。
ただ“生きる”ための一日だ。