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黒の王と白の剣 幻想水滸伝Ⅱ 夢

第10章 幕間 剣ではない時間


朝の陽が、石畳を淡く照らしていた。
いつもなら剣の重みと共に始まる一日――だがこの日は違った。
出撃の報も、命令の書も、呼び出しの声もない。
戦の匂いが一切しない、まるで別の世界のような朝だった。

「……休暇、というやつでしょうか」

自室の窓辺で、アルネリアはぽつりと呟いた。
剣を磨く手を止め、背筋を伸ばす。
戦場にいるときは、常に何かを斬るために息をしていた。
しかし今、斬るべきものはどこにもない。
風だけが静かに頬を撫でて通り過ぎていく。

「たまには、剣を休ませろ」
昨日、ルカ――陛下はそう言った。
命令であり、赦しであり、そしておそらく“試し”でもある。

剣としてしか生きてこなかった自分が、剣を置いたとき、果たして何者でいられるのか。
その答えを、今日という一日が教えてくれるのかもしれない。

***

「お、来たな。今日こそ人間らしい顔でも見せてもらおうか?」

兵舎裏の訓練場では、すでにシードが待っていた。
手には木刀ではなく、串焼きが二本。すでに片方は半分ほど食べかけている。

「シード……朝から肉ですか」

「戦がない日は腹が減るんだよ。食っとけ、腹が鳴ると心が負ける」

呆れたような顔で受け取った串を、アルネリアはためらいがちに口に運んだ。
熱と脂の香ばしさが舌に広がる。
戦場の乾いた口内では決して味わえない、妙な“生きている”感覚がそこにあった。
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