第7章 白の剣に見たもの
馬を操り、戦列の間を駆け抜ける。
剣を振るうたび、血が舞い、地が赤に染まる。
だが、そのたびに、あの白の影が脳裏を掠めた。
あの白が、戦場にあってなお消えない。
その事実が、彼の内に小さな苛立ちを残した。
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戦は、わずか数刻で終わった。
三千の都市同盟兵は全滅し、草原は赤く濡れた。
風が血を運び、空が沈黙を取り戻す。
ルカは馬上で剣を拭い、鞘に収めた。
青のマントが風に翻る。
その瞳が、静かに戦場を見渡す。
そこに――白があった。
アルネリア。
剣を鞘に戻し、静かに立っている。
その白い鎧には、血がまだ乾かずに滴っている。
だが、その佇まいは清浄そのものだった。
焦げた風が吹き、彼女の髪が揺れる。
光がわずかに反射して、刃のような輝きを見せた。
その姿を見て、ルカの唇が僅かに動く。
「……美しい。」
誰にも聞かれないほど小さく。
その言葉は、風に溶けた。
なぜそう思ったのか、自分でも分からない。
だが、そう思ってしまった。
その事実だけが、胸の奥に重く沈んだ。
彼は馬の首を撫で、視線を落とす。
血の泥に映る、黒髪の影。
自分自身が、何を見ているのか分からない。
「……いい。お前は、それでいい。」
その呟きに、温度はない。
それでも、確かにそこには“揺らぎ”があった。
アルネリアは振り返らず、ただ風の中に立つ。
白が赤を纏いながらも、なお光を放つ。
その光を見つめながら、ルカは思う。
――なぜ、俺は今、息をしている。
彼の胸で、かすかな鼓動が続いていた。
それは戦の終わりではなく、始まりの音だった。
彼自身の“知らぬ戦”の。