第7章 白の剣に見たもの
都市同盟軍――三千。
彼らは陣を組み、盾を構え、必死に抗う。
だが、それは海を塞ぐ手のひらのようなものだった。
最前列にいた兵士の眼に、黒髪の男の影が映る。
次の瞬間、その視界は裂けた。
ルカの剣が閃く。
一撃で三人が吹き飛び、赤が地を染めた。
彼の動きには力みも焦りもない。
ただ、淡々と死を与えていく。
兵たちは叫び、崩れ、逃げ惑う。
その中を、ルカは無表情のまま馬を進めた。
「……弱い。」
その一言が、風に消えた。
その直後――白が駆けた。
アルネリア。
白い鎧が、炎の光を反射して眩しく揺らぐ。
その刃が振るわれるたび、命が落ちる。
彼女の動きは静かで速く、正確で、恐ろしく美しかった。
流れるような剣筋が、風の音と一体化する。
殺戮が、まるで舞のように見えた。
その白に、血が飛ぶ。
紅が、純白の鎧を染めていく。
だが、それすらも美しかった。
死を纏ってなお、彼女の姿は穢れなかった。
ルカはその光景を見ていた。
剣を振りながら、意識の一部が彼女を追っていた。
彼はその理由を知らない。
だが、どうしても目が離せなかった。
白い鎧が、闇の中で揺れる。
血が滴り、風が通り抜ける。
彼女の髪が炎の光を掠め、まるで光そのもののように閃く。
その瞬間、彼の中で“音”が生まれた。
胸の奥に、微かに、確かに響いた鼓動。
殺すことの悦びでも、勝利の快感でもない。
それは、もっと静かな衝動。
――生きている者を、美しいと思ってしまった感覚。
ルカは眉をひそめた。
(くだらん……)
舌打ちが漏れる。