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黒の王と白の剣 幻想水滸伝Ⅱ 夢

第1章 滅びゆく村


アルネリアが十八になった春の朝。

父が荷車に本や麝香、鹿の角を積み、彼女はその横で手を動かしていた。
陽は低く、村にはいつもの穏やかな空気が満ちていた。

「アルネリア、今日は街道の町まで行く。支度を頼むぞ。」
『はい、父様。』

それはいつもと同じ朝の挨拶――
永遠に続くと信じた、何気ない日常の一幕。

だが、平穏は唐突に破られる。
遠くから、地を叩くような蹄の音が響いた。
風がざわめき、空気が震える。
次の瞬間、北の空に炎が立ち上った。

――都市同盟軍の襲撃だった。

なぜこの村が。
地図にも載らぬこの辺境に、何の価値があるというのか。
だが、理屈など意味をなさなかった。
戦は、理由ではなく都合によって起こる。
この地は、南下する軍にとって駐屯に適した土地――
それだけのことだった。

『父様、あれは……!』
「下がっていろ、アルネリア!」
『いいえ、私も戦います!』

少女の瞳に宿る決意に、父は一瞬だけ逡巡した。
だが、やがて頷く。
「……無理はするな。危なくなったら、すぐに逃げなさい。」

村人たちは狩りの槍を手に取り、必死に抗った。
だが、敵は圧倒的だった。
鉄の剣と鎧、訓練された兵。
村の男たちは次々に倒れ、逃げた者は馬に追われて斬られた。

空は炎で赤く染まり、子どもの泣き声が焼けた木々の間を渡る。
アルネリアと父は背を合わせ、剣を振るった。
だが轟音が響き、大地が揺れた。
次の瞬間、鉄の矢が放たれる。

「アルネリア!!」

父の胸を貫いたのは、矢だった。
血が飛び散り、彼の体が傾ぐ。
アルネリアは膝をつき、震える手で父を抱きしめた。

『いや……いやです、父様、行かないで!』

父の手が娘の頬を撫で、そのまま力を失った。
アルネリアの喉から、声にならない叫びが洩れた。
視界が滲む。
けれど、兵の手が彼女を乱暴に引き剥がした。

「……放して!」

嗤う兵の目は、獣のように光っていた。
「随分やってくれたな。……お前は死ぬより苦しい目に遭わせてやる。」

炎の中で、彼女の世界は崩れ落ちた。

夜が訪れても、地獄は終わらなかった。
村は焼け落ち、男たちはすべて斬り伏せられた。
呻き声も、泣き声も消えた。
ただひとり、生かされたのはアルネリアだった。

兵たちが笑い、品定めをするように彼女を囲む。
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