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黒の王と白の剣 幻想水滸伝Ⅱ 夢

第5章 焔の揺らぎ 名も無き祈り


その瞬間、アルネリアの呼吸が止まった。
喉の奥で何かが引っかかり、心臓が乱打を始める。
焼け焦げた空と、少女の姿が、あの日の記憶を呼び起こした。

――父が、倒れた。
――自分も、こうして泣いていた。
――守るべきものを失い、世界が崩れ落ちた。

痛みなど、とうに忘れたはずだった。
だが、目の前の光景が、あまりにも同じだった。

炎が軋む。
それが合図のように、兵の影が飛び込んできた。
無我夢中で突き出された槍が、鎧の継ぎ目を正確に捉える。
胸当てと腰当ての隙間――脇腹を、鋭く貫いた。

金属が肉を裂き、冷たさが骨に伝わる。
肺の奥で空気が弾け、視界が赤に染まった。

痛みより先に、怒りが走った。
反射的に剣を握り直し、振り抜く。
刃が空気を裂き、兵の喉を断つ。
血が炎に舞い、燃える音と混ざった。

兵が崩れ落ちると同時に、アルネリアは膝をついた。
脇腹の奥で血が沸騰するように熱い。
それでも、剣を手放さなかった。
まだ立てる。まだ戦える。
だが、少女の泣き声が耳を離れない。

「……どうして……。」
唇が、無意識に動いた。
それが誰への言葉なのか、自分でも分からなかった。

その時、風が吹いた。
炎の間を抜けるその風の先――
ルカ・ブライトが、立っていた。

村の中心。
崩れ落ちる家々と、燃え上がる空の只中に。
彼は剣を抜かず、ただその光景を見つめていた。
炎が彼の青いマントを照らし、影が長く伸びる。
その姿は、静寂そのものだった。
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