第4章 初陣
彼の言葉に従うほどに、胸の奥の“痛み”が形を変えていく。
罪悪でも悲しみでもない。
もっと冷たく、鋭い何か。
剣が、心臓と同じリズムで脈打っていた。
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戦が終わったのは、陽が傾く頃だった。
都市同盟の兵たちは、全てが斬り伏せられていた。
血の匂いが風に乗り、空の色が鈍く沈む。
アルネリアの手は血に濡れ、呼吸が荒い。
しかし、不思議と体の芯は静かだった。
その静けさを見て、ルカが言った。
「悪くない。……“生”を覚えたか。」
アルネリアは黙って頷いた。
彼の目が、わずかに笑う。
その光は氷よりも冷たく、火よりも熱かった。
「これでお前は、俺の剣だ。」
そう言い残し、ルカは馬を返した。
青いマントが、血の海を風に舞う。
その背を見送るアルネリアの胸に、
不思議な感情が芽生えていた。
――恐怖ではない。
――崇拝でもない。
ただひとつの確信。
この人は、私の世界そのものだ。
彼が命じなければ私は生きず、
彼が死ななければ、私は死ねない。
血の契約とは、ただの儀式ではない。
“生きる権利”そのものを預けた証なのだ。
アルネリアは剣を拭い、空を仰いだ。
雲が割れ、薄い光が降り注ぐ。
「……陛下。」
その声は風に溶けた。
その光はまるで、
ルカ・ブライトという名の闇を、
ほんのわずかに照らすようだった。