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黒の王と白の剣 幻想水滸伝Ⅱ 夢

第28章 追加if 二つの墓 数年後


季節が三度、四度と巡り、風はやわらかさを思い出していた。
皇都ルルノイエは別の時代を歩き始め、人々の声からは、戦の色が少しずつ落ちている。
それでも、石畳の冷たさと、城の廊下の長さは変わらない。
変わらない場所が、今の私には必要だった。

この日、私は二つの花束を抱えていた。
どちらもアルメリア。丸く集まった小さな花が、陽に透けて淡く光る。

最初に向かったのは、城の奥――静かな墓所。
ひとの出入りは少なく、空気は古い紙の匂いがする。
白い石に刻まれた名の前で、私は足を止める。

「……ルカ様」

声はすこし震えた。けれど、まっすぐだった。
私は花を置き、膝を折る。花弁が石に触れて、かすかに鳴った気がした。

「貴方が亡くなったあと、色々なことがありました」

言葉に、嘘を混ぜない。
私はたぶん、そういうふうにしか生きられない。

「シードと、過ごしました。……一緒に茶を飲んで、私が待って、彼が帰ってきて。
 抱きしめられて……私は、逃げませんでした。涙の夜もありました」

指先を重ね、息を整える。
ここから先は、なおさら正直に。

「嫌われるかもしれません。浮気者だと思われるかもしれません。
 それでも――私は、ずっと、ずっと貴方を愛していました」

言ってしまうと、胸の奥の固い扉が、音もたてずに少しだけ軽くなる。
罪悪感は消えない。けれど、隠しごとはもうここには似合わない。
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