第3章 狂皇子との出会い ー血の契約 (ルカ視点)
「ここで命を捨てるくらいなら、俺のために使え。」
『……貴方の……ために?』
「そうだ。お前の剣はまだ折れていない。
その刃を俺の敵――都市同盟に向けろ。
俺の剣となり、奴らを蹂躙しろ。」
女の瞳に、わずかな光が戻る。
それは憎しみと救いの境界にある微かな揺らぎだった。
「…村で。仇は打ったはずです。父を殺した兵も、村を売った母も。けれど、この胸に残ったものを、どこへ向ければいいのか分かりません。それが……陛下の敵を斬ることで果たされるのなら、この命は構いません。」
ルカは静かに息を吐いた。
「いい答えだ。――死を恐れぬ者は、強い。」
短刀を抜き、指先をわずかに切る。
赤い血が黒い机に落ち、静かな音を立てた。
「この血を受けろ。
お前の命は今日から俺の剣だ。
裏切れば、この血が灼いてお前を殺すと思え。」
女は自らの指を切り、机上に垂れる血を指先でなぞる。
二つの血が混じり、冷たい空気が肌を這った。
胸の奥で、契約の痛みが弾ける。
『承知しました。陛下。』
ルカは満足げに目を細める。
「いい目だ。そのまま燃え尽きるなよ。」
鎖を外す。
鉄の枷が床に落ち、鈍い音が響いた。
「今日からお前は、俺の剣だ。」
女は膝をつき、頭を垂れた。
『……はい、陛下。』
ルカは背を向け、青いマントを翻す。
「休め。すぐに使う時が来る。」
扉が閉まり、静寂が戻る。
黒い机の上には、二人の血が交わって乾いていた。
――死の中に生まれた剣。
その刃は、俺と同じ色をしていた。