第27章 追加if 戦いの後 墓前にて
城は、静かだった。
戦は終わり、風だけが回廊を渡っていく。
鐘は一度だけ鳴り、二度目は鳴らなかった。
数日が過ぎ、空はよく晴れていた。
墓所は石畳の奥にひっそりとあって、白い花が小さく揺れている。
丸い花房――アルメリア。
花瓶の水は新しい。誰かが先に替えていってくれたのだろう。
名を刻んだ石の前で、私は立ち止まった。
「……来ました」
声は小さいけれど、まっすぐに届く気がした。
膝を折り、花に触れる。冷たくはない。
あの日の、窓辺の光を思い出す。
「シード。……終わりました。戦は、終わりました」
風が髪を撫で、影が私の隣に寄り添うように延びる。
あの夜のことが胸の奥で静かに疼く。
言葉よりも深く、約束よりも重く、たしかに残った一度きりの口づけ。
「……行かないで、と言ってしまって、ごめんなさい。
必ず帰ってきて、とも言いました。……でも、分かっていました。
貴方は、行くのだと。行かなくてはならないのだと」
花房の間に、風が入って鳴った。
少しだけ笑う。やっと、ちゃんと笑える。
「最期の言葉、聞きました。クルガンさんと……。
“楽しかった”って。……ずるいです。私は、まだ、楽しいと言ってはいけないと思っているのに」
目の縁が熱くなる。
でも、泣いてはいけない日もある。今日は、その日ではないと思う。
涙は、落ちてもいい。けれど、立ち上がる前提で落とす涙にしたい。