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黒の王と白の剣 幻想水滸伝Ⅱ 夢

第25章 追加if 決戦 ― シードとクルガンの最期


風は低く唸り、曇天は鋼の蓋みたいに空を塞いでいた。
湿った土が靴底に貼りつき、旗は泥を叩いて鳴る。
ここまで来れば、あとは前に出るだけだ。戻る道は最初から用意されていない。

隣で、重い足音が止まる。

「シード」

振り向かずとも分かる声。クルガンだ。
肩を並べてきた年数の分だけ、互いの呼吸の速さまで読める。

「臆してねえか」

「お前ほどには、な」

「は、言うじゃねえか」

軽口は薄い布だ。布一枚、恐れの上に被せて立つ。
俺たちはいつもそうしてきた。

前方、土煙の向こうに六つの影。
中央には、トンファーを両手に構えた男――リオウ。
歴史のうねりは、いつだってひとりの背に集まる。
正義か悪かは関係ない。ここは刃でしか語れない場所だ。

俺は隊の前に出て、腹の底から声を裂いた。

「ここが最後に残った俺達の国。最後に残った俺達の誇り。
 それを汚させはしない!!」

クルガンが剣を抜く。曇天を映した刃が、細い光を震わせた。

「行くぞ、シード」

「ああ」

号令が落ちるより早く、地面を蹴る。
世界は一瞬で単純になった。呼吸と一手、そして一歩だけで構成される。

先陣の二人が斬り込んでくる。
リオウは動かない。半身で、トンファーの端を軽く回し、ただ見ている。
見極める目だ。手数の暴力ではなく、間合いと支点で世界をひっくり返す目。

火花。悲鳴。泥の飛沫。
俺は右へ半歩外し、剣を受け流して肩で押し抜く。
クルガンの剣が俺の間を縫って落ち、敵の肘を打ち据えた。
骨の鈍い音。一人が膝をつく。
瞬間、影――リオウのトンファーが閃き、肋の隙間へ楔のように突き入る。
剣ではない打撃。だが芯を折る角度で入れば、剣より速い。

「速えな……!」

クルガンが唸る。
初手で掴む。伸び、重さ、判断の迷いのなさ。
都市同盟リーダーの名は伊達ではない。

二手目、三手目。
打ち合う金属音に、彼女の声が重なる。

――「……必ず、帰ってきてください」

帰れないと知っている。
それでも足が前に出るのは、遠くで自分の名を呼ぶ人間がいるからだ。
名は、刃より先に届く。

左から回り込む二人を、クルガンが受け止める。
剣と剣がぶつかり、重く弾む。
彼は笑った。「任せとけよ、相棒!」
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