第24章 追加if 最終前夜 ― 最初で最後の口づけ
「……約束は、できない」
絞り出すように言葉を返す。
それが彼女を傷つけると分かっていても、嘘だけはつけなかった。
「でも――嬉しい。こんなにも、嬉しいと思うんだな……」
微笑んだ。それがきっと、この場で最後の微笑みになる。
彼女はもう泣いていなかった。ただ、真っ直ぐに俺を見つめていた。
その瞳の奥には、絶望ではなく、確かな“生”が宿っていた。
「……行くよ」
腕を伸ばせば、まだ届く距離。
それでも、もう抱きしめることはしなかった。
あの口づけが、すべてを語っているからだ。
扉に手をかける。
その瞬間、背後から小さな声が届く。
「生きて、ください」
それは祈りであり、命令であり、彼女が彼女として生きるための言葉だった。
「――できるだけ、努力するよ」
振り返らず、扉を開ける。
冷たい空気が頬を撫で、夜明けの匂いが忍び込む。
この先に何が待っているのかは、もう分かっている。
それでも、この唇の温度だけが、確かに“生きた”という証として残っていた。
たった一度きりの口づけ。
言葉よりも深く、約束よりも重く、魂の奥に刻まれた一瞬。
その記憶だけを胸に、俺は戦場へと歩き出す。
――彼女が生きる世界を、守るために。