第24章 追加if 最終前夜 ― 最初で最後の口づけ
「私は、あなたに。私の心はルカ様と共にあります、と言いました。」
「…そうだな」
「…でも、変わってしまいました」
「…」
やめろ。
「私……」
やめてくれ。
「あなたの、ことが――」
一番聞きたかった言葉なのに、今は聞いてはいけない。
それを聞いてしまえば、足を踏み出せなくなる。
それでも、彼女の顔が見たくて。顎に指を添え、こちらへと顔を向けさせる。
涙で濡れた瞳が、真っ直ぐに俺を見つめていた。
「す――」
その瞬間、理性の最後の一片が崩れ落ちた。
ただ、それだけだった。
最後までは言わせない。
唇が重なる。
激しさも、欲も、そこにはない。
戦場へ向かう前に、どうしても残しておきたかった最後の痕跡。
“愛している”という言葉すら、もう必要なかった。ただ、想いだけがそこにあった。
アルネリアは目を閉じた。
逃げない。拒まない。振り払うこともない。
その口づけを、しっかりと受け止めるように、ゆっくりと呼吸を合わせてくる。
押し殺していた心が、ゆっくりと溶けていくのが分かった。
唇が離れると、空気が震えた。
互いの呼吸が触れ合うほどの距離で、言葉も出ないまま、見つめ合う。
だが、その沈黙の奥には、もう“しまっておけない”想いが、はっきりと宿っていた。
「……そろそろ、行く」
声に出すと、彼女の身体がびくりと震えた。
掴んだ裾の指先が、ほんの少しだけ強くなる。
「……行かないで……」
「行かないわけには、いかない」
「……嫌です。貴方まで、失いたくない」
「それでも、行かなきゃいけないんだ」
涙が再び頬を伝う。その一滴一滴が、俺の胸に穴を開けていく。
それでも、足を止めるわけにはいかなかった。
「……シード」
名前を呼ぶ声が震えていた。
その声音は涙よりも切実で、痛いほど真っ直ぐだった。
「……必ず、帰ってきてください」
胸の奥が強く痛む。約束できる未来ではないことは分かっている。
それでも、真っ直ぐすぎるその願いが、壊れそうなほど大切で、抱きしめたくなる。
「……帰ってきた時は、その時は、私から」
その一言で、息が詰まった。
「好き」とも「愛している」とも言わないのに、すべてが伝わってしまう言葉だった。