第24章 追加if 最終前夜 ― 最初で最後の口づけ
「どうして……」
唇が震え、声が喉の奥で軋む。
「どうして皆、私の前から居なくなるの……! 父様も、ルカ様も、シードまで……嫌だ……嫌だよ……!!」
その叫びは刃を超える鋭さで胸を裂いた。
彼女は膝をつき、嗚咽をあげる。涙が止まらず、声が枯れても泣き続ける。
「どうして、私だけ……生きなくちゃいけないの……やだよ……!」
そこにいるのは、戦場で剣を振るった“武人”ではなかった。
ひとりの、傷つききった少女だった。
気づけば、俺は駆け寄っていた。
膝を折り、震える肩を抱きしめ、背中をゆっくりと撫でる。
彼女はその腕の中で、ただ泣き続けた。
白い髪が頬に触れるたび、胸の奥が軋む。
血と泥にまみれ、剣としてしか生きてこなかった彼女が、今はただ、女として泣いている。
それが、痛いほど愛おしかった。
「……すまない。本当に、すまない」
囁きのような声が、耳元へ落ちていく。
「俺は、お前が生きているこの世界を……守りたいんだ。たとえ、俺がもういなくても」
「そんな世界、いらないよ……!」
「嘘だ」
自然に、言葉が零れた。
「お前は、きっと生きる。泣いて、怒って、それでも立ち上がる。俺は、それをずっと見てきた。だから分かるんだ」
「……どうして、そんなことが言えるの」
「お前が、そういう人間だからだ」
言葉を失った彼女は、ただ胸に顔を埋めた。
涙が服を濡らし、震える指が上着の裾を掴む。
それは“抱きしめ返す”という明確な行為ではなかった。
それでも――拒絶ではなかった。
どれほどの時間が過ぎただろう。沈黙だけが二人を包み、外の世界が遠ざかっていく。
その沈黙の奥から、ずっと押し殺していた衝動が、静かに、しかし確かに、形を成した。
「……アルネリア」
掠れた声で名を呼ぶ。
「……シード」
「……どうした?」
聴こえないくらい小さな声で、彼女がなにかを呟く。
それでも、聞き取れてしまった。
――「ルカ様、申し訳、ありません」と。
顔を伏せたまま、絞り出すように。
そして、次の言葉は、もう止められなかった。
「シード」
「あぁ」