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黒の王と白の剣 幻想水滸伝Ⅱ 夢

第23章 追加if それから しまっておく気持ち


腕が伸び、抱きしめられる。
アルネリアは、いつもならただ受け入れるだけだった。けれど、この日は違った。
自分の意思で、手が彼の腰へと回っていた。
肩に置かれた手が、いつもよりも少し強くなる。

胸に顔を押し付けた瞬間、堰き止めていたものが一気に決壊する。
涙は音もなく、けれど確かな熱をもって流れ落ちた。

「……悪い。遅くなった」

「帰って、来ないんじゃないかと、思いました……帰ってきて、くれて……よかった、です……」

言葉は途切れ、途切れた隙間から別の温度が滲んでいく。
“しまっておく”と決めた感情が、顔を出す。
出してはいけない。と、分かっているのに。

自分でも気づかないうちに、片腕が彼の背中を抱き返していた。
指先が外套の縫い目を探し、ほどけない結び目をきゅっと掴む。
彼の呼吸が一瞬乱れて、すぐに整う。
動揺は隠した。嬉しさも隠した。ずるいほど、何も見せない顔で、ただ抱いている。

「生きてる。大丈夫だ。ここにいる」

「……はい」

「待たせた。ごめん」

「……ばか……」

「泣いてくれて、うれしい」

「……そんなこと、言わないでください……」

口に出した瞬間、アルネリアは目を閉じた。
言葉にすれば、少しだけ軽くなる。軽くなることが、裏切りに近づく気がして怖い。
それでも、彼は静かにうなずく。

「うん。俺はずるい。お前に自覚させないままでいたい。……でも、嬉しいんだ」

その言葉を聞いたとき、胸のどこかがふっと力を抜いた。
彼が“ずるい”と認めてくれたことで、ここで溢れた感情が、誰かを傷つけるためのものではないと知れたから。

顔を離す。
目のふちが赤く染まっているのを、彼は見ないふりをした。
その“見ないふり”の優しさは、ときどき刃よりも鋭い。でも、刃ではないと分かるだけで、安心だった。

「手、冷たい、です。お茶を」

「あぁ、飲むよ」

茶器に湯を注ぐ手が、少しだけ震える。けれどその震えは、もう恥ではなかった。
彼が茶を受け取り、ひと口飲んで、静かに息を吐く。その吐息が、宙でほどけていく。


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