第1章 【月と恋は満ちれば欠ける】
「ごめんなさい、お怪我はありませんか?」
膝をついて顔を覗き込む。ーーーよかった、怪我はないらしい。
でもやっぱりコートは汚れてしまっていた。
「コート、洗ってお返しします」
汚れ部分を試しに擦ってみたけれど、ダメそうだ。
うーん、仕方ない。
預かろうと手を伸ばす。が、反応がない。
……もしかして、怒っているのだろうか。
「あの…?」
「ーーあ、ごめん。……コート?いいよ、別にこんくらい。いつものことだし」
「でも」
食い下がる私に、男の子は「だいじょーぶだって」と土を払い立ち上がった。
(……驚いた)
うつ伏せになっていたから気が付かなかったけれど、彼はすごく目を引く出立ちをしていた。
真っ赤なコートに金色の髪もそうだけど、なんと言うか、まとっている雰囲気がすごくハッキリとしている。
真新しいキャンパスに原色のみで色をのせたような、雨上がりの朝に咲く陽光のような、パキッとした存在感。
そういう、清々しいものを背負った男の子だった。
「エドワード・エルリックだ」
「へ、」
「名前。アンタは?」
「ぁ、えと、ミシェル、ミシェル・タッカー、です。その子は妹のニーナ……」
しゃがんだまま物思いに耽けってしまった私に、男の子は訝しげな視線を向けてから、すっと右手を差し出した。
握手だろうと思い手を取ると、強い力で引っ張られる。
これじゃあまるで立場が逆だ。
私が助け起こすはずだったのに、と少しだけ恥ずかしく思ってから、お礼を言って、玄関の戸を振り返った。
「どうぞ、入ってください。大したおもてなしもできませんが……ニーナ、お客様を案内して差し上げて。私はお父さんを呼んでくるから」
「はーい!」と元気よく返事をしたニーナの頭を撫でて、背中を押す。
鎧の大きな人の手を握って歩き始めたのを見届けてから、アレキサンダーの足を拭いて、扉を閉めた。