第1章 【月と恋は満ちれば欠ける】
カラン、コロン、と聞き慣れたドアベルの音が鳴る。
ーーーこの家にお客様なんて、珍しい。
「はーい!」
運んでいた研究書の山を一度置いて、出迎えるために腰を上げた。
「ふぎゃああああッ!」
しかし玄関の方から悲鳴が聞こえて、はた、と思い当たる。
「そうだ、アレキサンダー……」
ニーナとお庭で遊んでるんだった。
アレキサンダーは温厚な子だから噛みついたりはしていないだろうけれど、身体が大きいから、急に飛びついたりすると驚かせてしまうかもしれない。
「こらっ、ダメでしょ、アレキサンダー!」
慌てて開けた玄関扉の先で、案の定、アレキサンダーはお客様に馬乗りになって尻尾を振っていた。
どうやら下敷きになってしまったのは男の子らしい。
うつ伏せに倒されているからよくわからないけど、私と同じくらいの歳だろうか。
アメストリス人らしいゴールドの髪に、鮮やかな赤色のコート。
しかしキツく編まれた三つ編みは、アレキサンダーのよだれで濡れてしまっている。きっとコートも汚れてしまっただろう。
あぁ、洗ってお返ししなくては……。
へっへっへっ、とどこか誇らし気にアレキサンダーが鼻を鳴らした。
「やぁ、これは驚いた。ミス、また一段と綺麗になったね。もう立派なレディだ」
がっくりと項垂れる私に、頭の上の位置から声がかかる。
視線を上げると、見覚えのある美丈夫が立っていた。