第1章 【月と恋は満ちれば欠ける】
⚠︎タッカー家の事情を捏造しています
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ーーー懐かしい夢を見た。
まだお母さんがこの家にいて、一緒に暮らしていたころの夢だ。
(あのひとが出ていって、もう2年も経つのに……)
そう、2年前。
お父さんが国家錬金術師の資格を取る、ほんの数日前だったろうか。
お母さんは私とニーナを置いて、この家を出て行ってしまった。
『父さんが頼りないばっかりに、お前たちには苦労をかけるね』
そう言って力無く笑うお父さんの顔を今でもよく覚えている。
違う、違うよ、お父さん。
お父さんが頑張ってることは、私もニーナも知ってるよ。
ーーーお母さんだって、知っていたはずだよ。
たしかに生活は楽じゃなかった。
国から補助金や研究費がもらえる国家錬金術師と違って、無名の錬金術師は研究にかかるお金を全て自費で賄わなければならない。研究所や会社に勤めることができれば僥倖だが、それができるのは国家錬金術師とまではいかずとも、優秀で、市民や会社に利益のある研究をしている錬金術師だけ。
お父さんのように“命”を使った研究は、人道に反すると嫌われ、相手にもしてもらえないのだ。
だからお母さんはお父さんの研究を支えて、私とニーナを養うために寝る間を惜しんで働いてくれていた。
誰よりもお父さんのことを思って、応援して、愛していたのは、お母さんだったはずだ。
(なのに、どうして……)
私たちを置いていったの。
なんて、そんなことを言う資格はないのかもしれない。
けれど、あと少しだけ、もうほんの少しだけお父さんを信じていてくれたら、と思ってしまう。
お母さんは出ていく最後の日まで、私たちの“お母さん”のままだった。
学校に行く私に、ニーナとアレキサンダーと並んで「いってらっしゃい」と手を振ってくれた。
温かいスープを作って、「おかえりなさい」と頭を撫でてくれた。
ニーナと私のおでこに、おやすみのキスをしてくれた。
『お母さん?』
でも次の朝、目を覚ますと、たった一枚の置き手紙だけを残して、お母さんはいなくなっていた。