第1章 【月と恋は満ちれば欠ける】
私の幸せは、四人と一匹の形をしていた。
アメストリス東部のイーストシティ中央区に構える、少し古びたクリーム色の洋館。
そこが私の故郷で、帰るべき家だった。
大きい庭を囲む塀を抜けて、両開きのドアの前のベルを鳴らすと、アレキサンダーの低い鳴き声が聞こえて、それから小さな三つ編み頭が顔を出す。そして私に笑顔を向けて言うのだ。
「お姉ちゃん、おかえり」って。
ニーナの手を引いてリビングの戸を開けると、今度は暖かなスープの香りと赤いエプロンが私を迎えてくれる。
トントントン、と規則的な包丁の音が止まって、お母さんが私を振り返る。
ダイニングテーブルで本を読んでいたお父さんも私に気づいて、優しく微笑んでくれるのだ。
「おかえり、ミシェル。外は寒くなかったかい?」
「おかえりなさい。ちょうどお夕飯もできあがるわよ」
ありきたりで、どこにでも転がっていそうな幸せが、私は大好きで、大切で。
この幸せがずっと続いていくのだと、疑ったことなんて一度もなかった。
『 おねぇ ちゃん お ねぇちゃん お おか おかえり 』
あぁ、それならばいっそ。
私のことなんて、殺してくれればよかったのに。