第1章 【月と恋は満ちれば欠ける】
「…そうか、それで“鋼の錬金術師”とーーー」
エドワードが話を終えると、タッカーはゆっくりと頷いた。
少年の身体に見合わない重苦しい鋼鉄の手足が、ひどく痛々しく思える。
「辛かったね」
彼は同情されることをよく思わないだろう。
しかし一人の父親として、そう言わずにはいられなかった。
「彼のこの身体は東部のあの内乱で失ったと上には言ってあるので、人体錬成のことは他言無用でお願いしたい」
マスタングの申し出をタッカーは「いいですよ」と軽く了承した。
それから腰を上げて、エドワードに目配せをする。
「では、役に立てるかどうかはわかりませんが私の研究室を見てもらいましょう」
今度は私の手の内を見せる番です、と綴命の錬金術師は優しく言った。
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「いや、お恥ずかしい。巷では“合成獣の権威”なんて言われてるけど、実際のところそんなに上手くはいってないんだ」
そこは、数多の命が蠢く場所だった。
蛇の尾を持つ三ツ足の猿、狐頭に狸の身体、蝙蝠の翼を生やした両生類。
様々な種類の生き物が本来の姿とはかけ離れたカタチで所狭しと並んでいる。
衛生状態は悪くないが、普通の人間ならば決して長居をしようとは思わないだろう。
不気味で、ともすれば人道に反すると罵られてもおかしくないそれらは、しかし錬金術師として見れば血の滲むような努力が感じられる研究成果たちだった。
「こっちが資料室だよ」
両開きの扉を開くと、再び錬金術師には垂涎ものの資料が、小さなコテージほどはありそうな部屋の隅から隅までずらりと並べられていた。
軽い図書館ほどの規模である。
これほどの量を集めるのに、一体どれだけの年月を費やしたのだろう。
エドワードは素直に感嘆の息をもらしながら、首が痛くなるような本棚を見上げた。
「自由に見ていい。私は研究室の方にいるから、何かあれば娘に言ってくれ。私よりもよっぽどこの家に詳しいからね」
娘、とはニーナではなくミシェルの方を指すのだろう。
先ほど庭からはしゃぎ声が聞こえたから、まだ外にいるのかもしれない。
だがそんなことよりも、エドワードの関心は目の前の宝の山にあった。
かろうじてマスタングの声を耳に入れながら、エドワードの意識は深い思考へと落ちていった。
