第1章 【月と恋は満ちれば欠ける】
厚切りにしたブレッドに、スライスしたハムを二枚のせる。
ベーコンは卵と一緒に少し焦げ色がつけるまで炙って、待っている間にレタスをさらっと水に通して適当な大きさに千切った。
「あ、こら。悪い子」
少し背の高いグランドキッチンの向こうからひょこ、と二つの小さな頭がのぞく。
そろりと伸ばされた手を握って咎めると、盗み食い常習犯の小さな怪盗とその相棒は「にしし」といたずらっ子の笑顔を見せた。
「もう、仕方ないなぁ。はい、あーん」
「あーん」
ちょうどよく焼けたベーコンを一枚ずつ口に入れてあげる。
ほんとはもうすぐ出来るから待っていて欲しいのだけれど、それまでお腹を空かせているのも可哀想なので、少しだけ。
……お父さんと私の分のベーコンがなくなってしまったけれど、仕方ない。
最初からなかったことにして、ハムとレタスを多めにはさみ、コーヒーと並べてトレイに乗せた。
「お姉ちゃん、お父さんのご飯運ぶの、ニーナがやるよ」
「ほんとう?重たいよ?」
「だいじょうぶ!ニーナ力持ちだもの」
「じゃあ、お願いしちゃおうかなぁ」
コーヒー熱いから気をつけてね、とニーナにトレイを託す。両手でしっかりと受け取ったのをみて、手を離した。
「お客さまには?」
「お客様には、私たちが食べ終わってからお持ちしようか」
「ありがとう、よろしくね」と頭を撫でるとニーナはくすぐったそうに笑って書斎へと歩き出した。その後ろを、アレキサンダーが見守るようについていく。
最近は率先してお手伝いをしてくれるから、本当に助かっている。
……きっと、すごく気を遣わせてしまっているのだろう。
「けほ、」
乾いた咳がこぼれた。
ままならないな、と思う。本当に、ままならない。
私がもっとしっかりしていれば、なんて。
「……頑張らなくちゃね」
腹の底に残る不安を掻き消すようにコップ一杯のお水と、そこに溶かした苦味を飲み込んだ。