第1章 【月と恋は満ちれば欠ける】
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「いやお恥ずかしい。妻に逃げられてからというもの、家のことも下の娘のこともあの子に任せきりでして……」
ショウ・タッカーは草臥れた様相の男だった。
シワの入った目元に、瓶底のような丸眼鏡。こけた頬と無性髭からは精神的な苦労が感じられる。
研究者とは、いつの時代も陰鬱としているものであった。
己と向き合い続けるというのは、それほどまでに身を削るのである。
娘たちが出て行った扉を見つめて、タッカーは深いため息をついた。
「あらためて。はじめまして、エドワード君。“綴命の錬金術師” ショウ・タッカーです」
綴命ーーー命を、綴る者。
人語を解する合成獣を創り上げた男に相応しい二つ名だ。
「彼は生体の錬成に興味があってね。ぜひタッカー氏の研究を拝見したいと」
「えぇ、かまいませんよ」
黒いインナーから覗く腕を組んで肘をつき、エドワードを見据えるとタッカーは優しく微笑んだ。
「でもね、人の手の内を見たいと言うなら君の手の内も明かしてもらわないとね」
エドワードを映していた眼鏡に影が落ちる。
穏やかな“父親”であったタッカーから、本来の顔が覗いた。
「それが錬金術師というものだろう」
それこそが等価交換であろう、と。
タッカーはエドワードに錬金術師としてあることを求めたのである。
ただの子供ではなく、あくまで対等な立場であろうとしてくれたのだ。
庇う姿勢を見せたマスタングを制して、エドワードは口を開いた。
一人の、錬金術師として。