第2章 弍 黎明
「それよりさ、君は俺の教義に納得してくれるんだ」
「教義?」
「殺して食べるなんて救済じゃないー! って言う人間ばっかりなんだよ。ひどいよね?」
彼はあぐらをかいて腕を組むと、わざとらしくぶーぶーと唇を尖らせる。確かに"死は救済"という考えはかなり極端ではあるし、納得しない人間が大半であることは想像に容易い。……だけど。
私は線路上に立っていた親友の顔を思い出した。彼女は最期に私を見て笑っていた。ひどく、幸せそうに。
「……死は、人によっては救済だと思います。暗く絶望の淵にある人間は、終わらせることでしか救われない。……生きていればいいことがあるなんてただの詭弁ですよ。それは生きていていいことがあった人間が言ってるだけ。そうじゃなかった人は、もう死んで声も出せないのです」
少なくともあの瞬間、彼女は救われていた。
「だから他の人はどうか知りませんけど、少なくとも私はいいなって思います。どこかで無為な死を迎えるより、童磨さまに食べてもらう方が……あなたの中で役に立てるって感じで、自分に意味があったと思える。……それは結構、私にとっては救いかもです」
童磨は目を見開いてこちらを見ている。
かと思うと、途端に嬉しそうに頬を上気させ、伸ばした腕でぎゅうと私を抱きしめる。
「わあ……澪ちゃんの考え方、俺と一緒だ! そうなんだよ。食べた子たちは俺の中で永遠に生き続けるんだ!」
再び骨が折れんばかりの強い力で私を抱きしめながら、すりすりと犬のように頬を擦り寄せてくる。さながら大きい犬だ。犬にしては少し、物騒だけれど。
「君のことも寿命が来たら食べてあげるね! それまで一緒にいよう」
その屈託のない笑みは、どこまで彼の感情の乗った"笑み"かわからないけれど、私の心には強く響いた。
"寿命が来たら"。
前世の私は寿命まで生きることなんて考えることもできなかったのに。この人は人の寿命など、簡単に迎えられると笑い飛ばす。
「……はい、お願いします。童磨さま」
ぎゅ、と自分からも抱きつき返してみる。
最期には自分を意味あるものにしてくれる。そしていつか、共に地獄へ逝く人。
瞳に浮かんだ涙を拭いながら、この歪な鬼と新しい生を生きてみようなどと思ってしまったのだ。