第2章 弍 黎明
じょうげんとはなんだろう? それが指す意味は分からなかったが、一つ理解したことは恐らく彼らが童磨の言う「鬼狩り」であろうということだった。
そして多分、この童磨という男はその鬼狩りですら恐怖する存在なのだろうということも。
「君たちはえらいね! 君たちみたいに弱い人間じゃあ絶対に勝てないのに、諦めず向かってこようとする!」
煽りや嫌味ではない。かと言って本心で尊敬しているわけでも当然ない。中身の伴わない言葉に思えた。
そして私はそうして眼前で行われている命のやり取りを、ただ呆然と眺めていることしかできなかい。
「黙れ! お前なんぞに何を言われても少しも恐ろしくなどない……!」
「柱の仇、今取らせてもらう!」
先ほど逃げる客を先導して行った1人を除いた、残っていた3人が一斉に雄叫びを上げながらこちらへ切り掛かってくる。
しかし童磨はそれを見ても椅子から一歩も動かなかった。
「えらい! きっと今すぐ逃げたいだろうに、囚われている子がいるから逃げないんだね。自分の命よりこの子の命を守ろうとしてるんだ」
童磨は一瞬チラリと私を見てから、再び鬼狩りたちの方へ向き直る。かちゃり、と奥義を広げて。
彼はひどく綺麗に笑っていた。だから、私はその美しい横顔に見惚れてしまっていて。
瞬きの間に人の声がしなくなったことに、全く気が付かなかった。
「……え?」
ぺしゃりと生暖かい液体が頬に触れて、反射的に私がようやく声を出した時には、もう立っている人間は店内のどこにもいなかった。
物悲しいジャズの音色だけが薄暗い店内に響いている。
「俺の可愛い"恋人"が、一緒に食事がしたいって言ってくれたんだ。だから俺もその気持ちに応えてあげようと思ってさ」
もう言葉を返すことのない肉の塊に向かってにこにこと、普段と変わらない声色で話しかけている。
そして徐に白目をむいている女性の腕を掴むと、ぶちりと引きちぎった。私が何か言う間もなく彼はそれを口に運ぶ。私の目の前で、人を。
「……ぁ、…あ……」
ぼりぼり、ばき、ぐちゅ。
肉や骨を咀嚼する音が静かな店内に響いている。
彼の口元から垂れる鮮血に目を覆いたくなった。しかしそれすら不可能なほど、私の体は硬直し切ってしまっていた。
「どうしたの? ほら、ご飯の続きしようよ。オムライスまだ残ってるよ」
