第2章 弍 黎明
思わず声のした方を見る。店の入り口付近に黒い制服のようなものを来た男女が2人ずつ立っていて、一様に迷いなくこちらを見ていた。腰には刀を提げている。
童磨は入り口に背を向けて座っているので、彼はこの光景が見えていないだろう。
「ご安心ください、今すぐ助けますから……!」
制服の少女がこちらを見て強く頷いた。
安心? 今すぐ助ける?
この少女は童磨から私を助けると言っているのだろうか。
黒い服の人間たちは私たちの方を一点に見つめたまま、一斉に刀を抜いた。それを見て店内の客はざわめき出し我先にと店の外へ駆けていく。逃げ遅れた客を黒い服の人間が1人飛び出して先導して行き、店内は私たちと残った黒服のみになって静かになる。
私は口の中に残ったオムライスを咀嚼することも忘れ、その光景を呆然と眺めていた。刀なんて博物館のショーケースの中でしか見たことがなかったのに。今童磨に向けられている銀色の鋒は、間違いなく命を狩るためのものだった。
私を救おうとする必要はない、と彼らに言いたかったが、喉まで出かかったその言葉は音にならずに霧散した。彼らは誰が見ても明らかなほど激しく燃え上がるような憎悪を童磨に向けていたから。激情の前に私は恐怖で身がすくんで声の一つすら出せなかった。
一度死に、二度目は鬼に見逃され……ほとんど二度死んだような私ですら、その光景にはバクバクと激しく心臓が揺れ動いてしまう。この場は今殺し合いの場になってしまったのだ。
まさに一触即発の空気。一度火蓋が落とされれば、彼らは本気で童磨を殺すために切り掛かってくるだろう。
しかし正面に座っている鬼は、張り詰めた空気に水を投じるように、入口の方を振り返りながら場違いに微笑んだ。
「こんばんは。良い夜だね」
刀を向けられているというのに、童磨は椅子に座ったまま楽しげに笑っている。昨夜私に向けた笑みと同じだ。綺麗な笑みなのに、温度がない。死合いの場においてはあまりに不自然なその笑みが、彼を人ならざるものであることを象徴しているようだった。世間話でもするかのような気軽い口調に逆に背筋が寒くなる。
そして黒服たちは自分たちの方を振り返ったその童磨の顔を見て、目を見開いてがたがたと震え出した。
「上弦の……弐!?」
「い、いや、関係ない! 怯むな!」