第2章 弍 黎明
結局童磨はそのあとも最後まで私の顔を凝視したまま一切目を逸さなかったので、当然私は全然映画には集中できなかった。
そしてなぜか私の顔をずっと見ていたはずの童磨の方が映画の内容をちゃんと理解していた。本当にどうなっているんだろう、鬼ってやつは……。
「面白かったね、澪ちゃん」
「は、はい……」
映画館を出て並んで通りを歩く。
正直内容なんて全然覚えていない。それどころじゃなかった。そしてこの鬼も多分面白かったとは別に思ってないと思う。
ふいに左手の薬指を見下げる。先ほど童磨に傷つけられた薬指の付け根には、赤い痕がリングのようになり艶めいている。
「どう? 結婚指輪」
童磨はせつなげに眉を下げ、私の目に残っていた涙の跡を拭う。
「痛かったよね、かわいそうに……ごめんね、俺が強引にして」
「いや、そんな……確かにちょっと痛かったですけど」
大人しく涙を拭われながらそちらを見て、私は笑みをこぼす。
「……ありがとうございます」
彼にとっては単なる興味か、遊びか、それ以前に何も考えていない行動だったかもしれないけど、他の人間にはしないであろうことを自分にしてくれたのは素直に嬉しかった。こうして涙を拭ってくれることも、また同じだ。
やってることは度を超えた狂気だが、薬指に指輪をくれたという事実はとりあえず間違いがないわけだし。
「あはっ。君って本当に可愛い!」
童磨は何やら楽しそうだ。どうやらまた私は選択肢に正解したらしい。まあ、楽しそうなフリかもしれないけど。
「このあとは喫茶店でも入ってみる? みんなそうしてるみたいだし」
ふいに童磨が店の方を指差す。周囲のカップルたちは映画の感想を言い合うためか各々お店に入っていく。現代でも定番の流れだ。
「楽しそうですね。行ってみたいです」
「うん! じゃあこっち」
私たちは連れ立って人の多い喫茶店に入っていく。
「…………」
しかし入店するなり、彼は顔を顰めた。
「どうかしましたか?」
「ああ、ううん。ちょっとやな気配がしたんだけどー……まあ大したことじゃないよな。座ろ座ろ」
童磨は何事もなかったように適当な席へ着く。きっと何かの気のせいだったのだろう。私も特に気にせず、メニュー表を開いた。