第2章 弍 黎明
街の入り口に着けば、ようやく彼の腕から下ろされる。色んな意味でドキドキしすぎて一体何が原因で脈が速くなっているのかもう判断がつかない。逆に彼の方は何一つとしてびくともしていなくて自分が情けなくなった。
日が落ちたばかりだからか夜とはいえ人通りはある。さすがに現代の東京のような明るさはないが、ここも大正時代のどこかの都市のようなものなのか電灯はちらほらついており、ハイカラな男女が往来を歩いている。
「それじゃあまずは何しよっか!」
楽しそうに前を歩いて行く童磨の背を追う。彼は扇を口元に当ててうーんと考えるように上を向いた。
「人間の逢瀬ってどういうことするの?」
「えーとそうですね……」
大正時代に存在したエンタメ施設はどんなものがあったかと脳裏に思い浮かべる。
「映画とか?」
「あ、それ知ってるー! 最近できたやつだよね。人間の男女が楽しそうにしてた」
確かあの辺だった、と扇で方角を指す彼の視線を追う。確かにあちらの大通りには大きな建物がいくつか並んでいる。
彼の視界に入ってしまったその男女がどうなったかはあまり考えないでおこうと思う。
「行ってみよっか」
「はい!」
私たちは逢瀬を重ねる周囲の男女たちと同じように、手を握り合って大通りまで歩いて行った。
そうしてチケットを購入し、座席に着き、映画が始まるのを並んで待つ。
夜の上映ということもあってか周囲の席はカップルで埋め尽くされている。現代においてもそうだが、やはり大正時代でも定番デートスポットだったのだろうか。
だがそんなことより……。
「あの、童磨さま……見過ぎです」
あろうことか童磨は正面のスクリーンではなく横に座っている私の方を穴でも開きそうなくらい凝視している。首ごと傾けて。
「あは、ごめんね。隣に可愛い女の子がいるからつい」
「そ、そうですか……」
これが真剣な口説き文句なら素直にときめけたものを。口から出まかせを言っているのが分かるだけに複雑だ。カップルの男性の言葉でもなぞっているつもりなのか。
「あ、映画始まりますよ」
私は照れを誤魔化すように正面を向く。今はとにかくスクリーンに集中することにした。