第2章 弍 黎明
そうして彼と外へ出てすぐのこと。夜のデートだ、なんて少しだけでも浮かれていた自分を恥じることとなった。
「あの……童磨さま、少し休憩とか」
一歩ずつ整備されていない大地を踏みしめる。どうやらこの万世極楽教の建物は山奥にあるらしく、街はだいぶ遠いようだ。山奥から着物で街まで下山するという発想のない現代人なのでその話を聞いた途端気が遠くなった。
やはり現代のスニーカーに慣れた私には下駄は歩きにくい。童磨がさくさく歩いて行くために追いつくのに必死だ。
「ああ、ごめんごめん! 女の子には歩きにくいよね! 俺が連れて行ってあげるよ」
さっさと前を歩いていた童磨は、歩くのに手こずっている私を振り返って笑っている。彼ほどの実力者なら私が明らかに歩きにくそうにしていることくらい言われなくても見なくてもわかっていただろうに、あまりにわざとらしい。
だが不快感もなかった。彼からは一切の悪意が感じられないから。彼はもたつく私を嘲笑っているのではなくて、ただ恋人の真似事をしようとしているだけ。無邪気で残酷な子供みたいだ。
「ありがとうございます、童磨さま」
「ううん、いいんだよ澪ちゃん」
彼は手を伸ばすとひょいと私を横抱きにした。ちょっとゆっくり歩いてもらうくらいでよかったのに、唐突にお姫様抱っこの構図になるとは思わずぽぽぽと顔が上気する。再び心の臓が高鳴るのを感じる。
しかし彼の硬い胸が眼前にあっても、やはり彼の鼓動は感じられなかった。それは鬼だから心臓が鼓動していないのか、単にこの程度では彼の心臓が揺らぐ結果にはならないというだけの話なのか、私には判断ができなかったけれど。
そして彼はそのまま信じられない速度で走り出した。
「今日も月が綺麗だねえ! 流石にもう赤くないみたいだけど……ね、澪ちゃん!」
「ひゃ、ひゃいっ!」
新幹線の上に生身で乗っているかのような異常な速度にろくな返事もできない。あまりに速すぎて舌を噛みそうだ。