第7章 まね妖怪との対決

「まね妖怪退治は、誰かと一緒にやるのがいちばんいい。向こうが混乱するからね。首のない死体に変わるべきか、人食いナメクジになるべきか――。私は一度、まね妖怪がその両方を同時にやろうとして、半分だけナメクジになったのを見たよ」


教室がどっと笑いに包まれる。
ロンは肩を揺らして笑いながら、「そりゃ怖いっていうより気持ち悪いな」とつぶやいた。



チユも笑いながら、リーマスを見つめた。
笑うことで、場の空気を変える――その魔法を、彼は自然に使っていた。




「ボガートを退散させる呪文は簡単だ」
リーマスは杖を軽く持ち上げた。

「でも必要なのは、呪文よりも“心の力”なんだ。本当に倒せるのは、“笑い”だけ。ボガートを、滑稽で、ばかばかしい姿にしてしまえばいい」



リーマスが軽く息を吸い、笑みを含んだ声で言った。
「さあ、私に続いて言ってみよう――リディクラス！」



「リディクラス！」
教室中に声が響き渡った。



チユも杖を握りしめながら、小さく声に出してみる。
「リディクラス……」
以前、巨大蜘蛛の大群を追い払った時の記憶が蘇り、勇気がじんわり湧いてくる。



「よくできた」 リーマスが微笑む。

「だが、呪文だけじゃ不十分だ。心のイメージが鍵だよ。ネビル、君から始めよう」




洋服ダンスがガタガタと揺れ、ネビルがまるで絞首台にでも向かうように震えながら進み出る。

チユはネビルの肩にそっと手を置き、囁く。
「絶対できるよ、大丈夫」




ルーピンが穏やかに尋ねる。
「ネビル、君が1番怖いものは？」



ネビルの唇が動くが、声が出ない。ルーピンが明るく促す。
「ん？ごめん、聞こえなかったよ、ネビル」



ネビルはキョロキョロと助けを求めるように周りを見回し、蚊の鳴くような声で呟く。
「スネイプ…先生…」



教室が爆笑に包まれる。
ロンが「ナイス、ネビル！」と囃し、チユも少し笑った。



リーマスは真剣な表情で続ける。

「スネイプ先生か…ふむ。ネビル、君はおばあさんと暮らしてるよね？いつも、どんな服を着ている？」




ネビルがキョトンとする。


「えっと…いつも同じ帽子。すっごく高くて、ハゲタカの剥製がついてるの。長い緑のドレスで…時々、狐の毛皮の襟巻き。あ、でっかい赤いハンドバッグも！」