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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【3】

第7章 まね妖怪との対決



「ひゃっ…!」


チユが思わず身を引く。ハーマイオニーもびくりと肩をすくめ、ロンが情けない声を上げた。


「心配しなくていいよ」



ルーピン先生は静かに微笑み、たんすの前に立つ。
「中に“まね妖怪”――ボガートが入ってるんだ」



チユの心臓がどくんと跳ねた。




「まね妖怪は暗くて狭い場所を好む」
リーマスの声が静かに続く。


「洋だんすやベッドの下、食器棚の中……。ここにいるのは、昨日の午後に入り込んだやつだ。3年生の実習にちょうどいいと思ってね。校長先生にも了承をもらったんだ」



その穏やかな口調に、少しだけ空気がやわらぐ。
チユはハリーの隣に立ちながら、そっと杖を握った。
指先に汗がにじむ。



「それでは、最初の問題ですが――ボガートとはなんでしょう?」


ハーマイオニーがすぐに手を挙げた。
「形態模写妖怪です。私たちが1番怖いと思うものに姿を変えることができます!」



人の恐怖を形にする存在……。胸の奥が冷たくなる。


誰にも知られたくない。
自分が何を恐れているのか、ましてや――その理由なんて。




「その通り」
ルーピン先生が微笑んだ。
「私でも、そんなにうまく説明できなかったろう」


ハーマイオニーが少し照れくさそうに笑う。
教室の空気がふっと明るくなった。
リーマスは続けて言う。



「だから今、中にいるボガートはまだ“何者でもない”。外にいる誰かが、何を怖がるのか分からないからね。誰も知らない――ボガートの“素の姿”を見た者はいない。しかし、私が外に出してやると、たちまち、それぞれが1番怖いと思っているものに姿を変えるはずだ」




彼と目が合う。
ルーピンはやわらかく、ほんの一瞬だけ、懐かしいような笑みを返した。




「つまり、初めから君たちのほうが、まね妖怪――ボガートよりも有利な立場にあるんだ。さて、ハリー。どうしてだかわかるかい?」



隣でハーマイオニーが勢いよく手を挙げて、つま先立ちで跳ねている。
チユはそれを見て思わず小さく笑ってしまった。




ハリーは苦笑しながらも答えた。
「えっと……僕たちはたくさんいるから、どんな姿に変わればいいか、ボガートが迷う、とか?」



「そのとおり!」
リーマスが嬉しそうに頷くと、ハーマイオニーが少し残念そうに手を下ろした。
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