第7章 まね妖怪との対決
リーマスが微笑む。
「よし、ネビル、その姿を心にしっかり描いて。ボガートがスネイプに変身したら、杖を上げて"リディクラス"と叫ぶんだ。そして、おばあさんの服を想像する。うまくいくと、ボガートはハゲタカの帽子と緑のドレス、赤いハンドバッグを持ったスネイプになるよ」
教室のあちこちでクスクスと笑いが起きる。
チユも頬を膨らませながら、小さく笑った。
想像してしまったのだ。――スネイプが、そんな格好をしている姿を。
「…ふっ……だ、だめ……想像したら……!」
ハーマイオニーまで笑いをこらえきれず、ハリーは顔を伏せて肩を震わせていた。
「きっと、すごく……似合うだろう!」
ディーンが声を上げると、教室中が爆笑に包まれる。
ネビルの頬が真っ赤になったが、少しだけ勇気が戻ったように見えた。
リーマスが続けた。
「ネビルが成功したら、ボガートは次々に君たちに向かってくる。みんな、自分の1番怖いものを考えて、どうやって笑いものに変えるか、イメージしてごらん」
その言葉に、チユは小さく息を飲んだ。
“怖いもの”――
それを考えようとした瞬間、胸の奥がきゅっと縮まる。
背中が、うずいた。
彼女の心に、ひとつの映像が浮かぶ。
黒くて歪んだ羽根。
それを見つめる、誰かの冷たい視線。
驚き、怯え、そして――嫌悪。
胸の奥が熱くなる。
誰にも見られたくない。知られたくない。
また『悪魔』だと、きっとそう呼ばれる。
だが、その恐怖の奥から、別の影が浮かび上がる。
――トム・リドル。
あの整った顔立ち。
あの赤い瞳。
耳元で囁かれた、冷たい言葉。
『君もいずれこちら側に来るだろう、必ず――』
忘れられない。
チユの喉がひくりと震えた。
あの男に、言われたときの、あの感覚。
自分が“普通でない”と突きつけられたときの絶望。
だけど――それよりも、もっと奥にあった。
心の底に沈んでいる、もっと柔らかくて、壊れやすい恐怖。
(……リーマスを、失うこと)
それが、1番怖い。
あの人のいない世界なんて、考えられない。
声を失い、導きを失い、自分がどこへ行けばいいのかわからなくなる。
まるで、光を奪われた夜のように。