第7章 まね妖怪との対決
廊下の角を曲がった瞬間――
「ルーニ、ルーピ、ルーピン! バーカ、マヌケ、ルーピン!」
甲高い声が響いた。ピーブズだ。
逆さまになって、鍵穴にチューインガムを押し込んでいる。
「ピーブズだわ……」
ハーマイオニーが眉をひそめる。
リーマスは足を止めたが、怒った様子もなく微笑んだ。
「ピーブズ、私なら鍵穴からガムをはがしておくけどね。フィルチさんが箒を取りに入れなくなるじゃないか」
「ルーピン、ルーピン!先生ぶってるルーピン!」
ピーブズはベーッと舌を出して、鼻を鳴らした。
リーマスは小さくため息をつき、杖を取り出す。
「この簡単な呪文は、役に立つよ」
彼は肩越しに生徒たちを振り返り、落ち着いた声で言う。
「よく見てなさい」
杖を肩の高さに構え、ルーピンが唱える。
「ワディワジ!」 一閃。
チューインガムの塊が弾丸のように鍵穴から飛び出し、ピーブズの左の鼻の穴に直撃。
ピーブズはもんどり打って宙返りし、悪態をつきながら廊下の奥に消えた。
チユは目を丸くし、思わず拍手する。
「やった! リーマ………ルーピン先生、すごい!」 慌てて言い直し、頬が熱くなる。
ロンがニヤリと笑い、チユを軽くつつく。
「チユってば、ロックハートに対してのハーマイオニーみたいになってるぞ」
ロンがからかう。
「だって、かっこよかったでしょ!」
チユは笑顔で返すが、心の中では父への誇らしさが膨らむ。
リーマスが振り返り、ふとチユと目が合った。
その瞳に、誰にも気づかれないような父の優しさがチラリと光る。
チユの胸がふっと温かくなった。
けれど、チユはすぐに視線をそらし、隣のハーマイオニーに顔を向けた。
「さあ、行こうか」
リーマスの声が廊下に響き、生徒たちを先導する。
生徒たちの視線には、さっきの呪文で一気に芽生えた尊敬が宿っていた。