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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【3】

第6章 薬の香りと、因縁



「おい、ハリー」

シェーマスが声を潜め、身を乗り出した。
「今朝の『日刊予言者新聞』見たか? シリウス・ブラックが目撃されたんだ!」



チユの手が止まった。
その名は、まるで禁句のように空気を震わせた。




「どこで?」

ロンがすぐに聞き返す。
ハリーも顔を上げ、真剣な眼差しを向けた。




「ここから、そう遠くない場所でさ」
シェーマスの声が少し上ずる。


「マグルの女性が見たんだ。魔法省が駆けつけた時には、もういなかったらしい」




「ここから近い……?」
ロンの声が、かすかに震えた。



チユは思わずハリーを見つめた。
彼の目には、静かな決意の光が宿っていた。




マルフォイが、いつの間にかその会話を聞いていた。

「ポッター、1人でブラックを捕まえに行くつもりか?」
声には嘲りと興味が混じっていた。




「そうだ。そのとおりだ」
ハリーの声は、静かでまっすぐだった。




「僕だったら、もうとっくに動いてるね」
マルフォイの声は、煮えた鍋の中の泡より冷たく響いた。


「いい子ぶって学校でじっとしてるなんて、退屈だろ? 僕なら――ブラックを探しに行くさ」




ロンが顔をしかめた。
「マルフォイ、いったい何の話だ?」



マルフォイは肩をすくめ、唇の端を上げる。
「ポッター、知らないのか?」



「何を?」
ハリーの声は静かだが、奥底に警戒の色が滲んでいた。



マルフォイはわざと間を置いてから、ささやくように言った。

「君は、危ないことはしたくないんだろうな。吸魂鬼に任せておきたいんだ。……でも僕なら復讐してやる。ブラックを、自分の手で追い詰めるさ」




チユの胸が一瞬でざわついた。
復讐――その言葉が、空気を濁らせた。




「“復讐”なんて……どういう意味?」
チユは言葉を詰まらせる。



「いったい何のことだ?」
ハリーの声は低く、押し殺された怒りを帯びていた。



だがその時、黒いローブの裾が音を立てた。
「材料はすべて加えたな」

スネイプの低い声が、冷たい教室に落ちる。



「この薬は服用前に煮込まねばならん。煮えている間に後片付けをしておけ。……あとでロングボトムの薬を試すことにする」

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