第6章 薬の香りと、因縁
魔法薬学――ネビルにとって、最も過酷な授業。
そしてその講師は、最も冷酷な教師。
スネイプが黒いローブを翻して歩み寄る。
その姿はまるで影そのもので、チユは思わず息を詰めた。
「オレンジ色か、ロングボトム」
スネイプが冷ややかに言いながら、ひしゃくで薬をすくい上げた。
粘つく液体が、大鍋からゆっくりと垂れ落ちる。
本来は明るい黄緑になるはずの薬――それが、不気味なオレンジ色をしていた。
「ネズミの脾臓は1つでいいと、はっきり言ったはずだ。ヒルの汁も少量で十分だと……我輩の声は、君の頭蓋骨を突き抜けていかなかったのかね?」
スネイプの声は、まるで毒のように滑らかだった。
ネビルは青ざめ、小さく震えている。
「先生、お願いです!」
ハーマイオニーが勢いよく立ち上がった。
「私に手伝わせてください!ネビルの薬、ちゃんと直させます!」
しかし、スネイプの視線は冷ややかに彼女を切り捨てた。
「でしゃばるよう頼んだ覚えはない、ミス・グレンジャー」
ハーマイオニーは頬を真っ赤にして座り込む。
その肩が、ほんのわずかに震えていた。
「ロングボトム。この授業の最後に、その薬を君のヒキガエルに数滴与えてみるといい」
スネイプの声は静かだが、冷酷な愉悦が滲んでいる。
「結果を見れば、少しは真面目に取り組む気になるだろう」
ネビルの顔から血の気が引いた。
チユはもう見ていられなかった。
思わず身を乗り出し、声を震わせながら言った。
「先生……!それは、ちょっと――」
スネイプの黒い瞳が、すっとチユに向けられる。
その一瞬で、教室の温度が下がったように感じた。
「減点されたいのかね、クローバー?」
その低い声には、静かな圧がこもっていた。
チユは喉を詰まらせ、唇を噛んだ。
「……いえ、なんでもありません」
小さく俯くと、ハリーが心配そうにこちらを見ていた。
(また減点されるところだった……)
スネイプが離れていくと、教室の空気が少しだけ緩んだ。
しかしチユの胸の中では、怒りと無力感が混ざり合っていた。