第6章 薬の香りと、因縁
ネビルの手元からは、汗の滴が鍋の縁に落ちていた。
彼の頬は真っ赤で、唇は震えている。
クラッブとゴイルの笑い声が、ひそひそと教室を汚した。
チユはそれを見て、拳を机の下でぎゅっと握った。
ハーマイオニーがそっと身を乗り出し、唇を動かさずにネビルへ指示を送っている。
その表情は、焦りと優しさが入り混じっていた。
ハリーとロンは残っていた材料を片づけ、隅の石の水盤で手を洗い始めた。
冷たい水が流れ落ちる音だけが、しばらく教室を満たす。
「マルフォイは……何を言ってたんだろう?」
ハリーが低くつぶやく。
水面に映るその顔は、少し疲れて見えた。
チユは隣で手を洗いながら、静かに答えた。
「気にしないで。マルフォイの事だから、わたし達を不安にさせようと、デタラメを言ったに違いないよ………」
そう言ったものの、マルフォイの言った"復讐"という言葉が彼女の胸にずっと引っかかっていた。
「そうさ、でっち上げだろ。ハリーに何かバカなことをさせたいだけだ」
ロンの言葉にチユは小さくうなずいた。
やがて、スネイプの低い声が響いた。
「諸君、ここに集まりたまえ」
その声ひとつで、全員の背筋が伸びた。
スネイプが大股で歩き、ネビルの前に立つ。
「ロングボトムの『縮み薬』が正しく出来上がっていれば、ヒキガエルはおたまじゃくしに戻る。……だが、もし間違っていれば――毒で死ぬだろう」
チユの心臓が、どくん、と跳ねた。
「先生、そんな……!」と叫びそうになるのを、喉の奥で必死に押しとどめる。
スネイプがヒキガエルのトレバーをつまみ上げ、緑色の薬を数滴たらした。
一瞬の沈黙。
チユの手のひらに、冷たい汗がにじむ。
――ポン。
軽い音がして、トレバーの体が小さくはじけ、滑らかに縮んだ。
おたまじゃくしのトレバーが、スネイプの掌の上でくねくねと動いている。
「成功した……!」
チユが思わず小さく呟いた瞬間、グリフィンドールの席から拍手が湧いた。
だがスネイプは、唇をわずかに歪めただけだった。
ポケットから小瓶を取り出し、トレバーに別の液体を数滴たらす。
するとトレバーは、すぐに元のカエルに戻った。