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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【3】

第6章 薬の香りと、因縁



「ウィーズリー、君の根とマルフォイのを取り替えたまえ」

スネイプの声は静かだが、危険な響きを孕んでいた。



「先生、そんな――!」

ロンが抗議しかけたが、その言葉は冷たい視線に押し潰された。



15分かけて丁寧にそろえた根が、無造作にマルフォイの前へ押しやられる。
マルフォイはその様子を、まるで劇を観る観客のように楽しげに眺めていた。




「先生、それから……この“萎び無花果”の皮もむいてもらわないと」
あくまで柔らかく、底意地の悪い笑みを浮かべながら。




「ポッター、マルフォイの無花果をむいてあげたまえ」
スネイプの声には、いつものように冷たい憎悪が滲んでいた。




ハリーは一言も言わず、無花果をつかみ取ると手早く皮をむいた。
そして、マルフォイに投げ返す。




マルフォイは嬉しそうに受け取り、指先で弄びながら言った。
「君たち、ご友人のハグリッドを最近見かけたかい?」




ロンの肩がぴくりと動いた。

「お前の知ったこっちゃない」
その声には、抑えきれない怒りがにじんでいる。




マルフォイは悲しむふりをしながら、ため息をついた。

「かわいそうにね。もう、先生でいられるのも長くないかも……父上は、僕の怪我のことをとても心配してくださっているんだ」



「いい気になるなよ、マルフォイ!」
ロンの声が机を震わせた。



「父上は理事会にも訴えた。魔法省にもね。力のある方なんだ」

マルフォイは、わざと吊った腕を眺める。
「この腕……元どおりになるんだろうか?」




その芝居がかった嘆きに、チユの手が小さく震えた。


ハリーの手元で、イモムシの頭が転がる。
彼の声が震えながら弾けた。



「ハグリッドを辞めさせようとしてるのか!」




マルフォイは声を落とし、唇の端で小さく笑った。
「ポッター、それもある。でもね――ほかにもいろいろ“いいこと”があってね」

彼はわざとチユの方をちらりと見やり、囁きを続けた。
「ウィーズリー、僕のイモムシを輪切りにしろ」




ロンの手がぴくりと震えた。
彼の頬は、茹でた蟹のように真っ赤に染まっている。


チユは唇をきゅっと結び、怒りが指先にまでこみ上げるのを感じた。




その時、数個先の鍋から、嫌な音がした。


「……っあ!」
ネビルの鍋が、ぼふっと煙を上げたのだ。
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