第6章 薬の香りと、因縁
「ウィーズリー、君の根とマルフォイのを取り替えたまえ」
スネイプの声は静かだが、危険な響きを孕んでいた。
「先生、そんな――!」
ロンが抗議しかけたが、その言葉は冷たい視線に押し潰された。
15分かけて丁寧にそろえた根が、無造作にマルフォイの前へ押しやられる。
マルフォイはその様子を、まるで劇を観る観客のように楽しげに眺めていた。
「先生、それから……この“萎び無花果”の皮もむいてもらわないと」
あくまで柔らかく、底意地の悪い笑みを浮かべながら。
「ポッター、マルフォイの無花果をむいてあげたまえ」
スネイプの声には、いつものように冷たい憎悪が滲んでいた。
ハリーは一言も言わず、無花果をつかみ取ると手早く皮をむいた。
そして、マルフォイに投げ返す。
マルフォイは嬉しそうに受け取り、指先で弄びながら言った。
「君たち、ご友人のハグリッドを最近見かけたかい?」
ロンの肩がぴくりと動いた。
「お前の知ったこっちゃない」
その声には、抑えきれない怒りがにじんでいる。
マルフォイは悲しむふりをしながら、ため息をついた。
「かわいそうにね。もう、先生でいられるのも長くないかも……父上は、僕の怪我のことをとても心配してくださっているんだ」
「いい気になるなよ、マルフォイ!」
ロンの声が机を震わせた。
「父上は理事会にも訴えた。魔法省にもね。力のある方なんだ」
マルフォイは、わざと吊った腕を眺める。
「この腕……元どおりになるんだろうか?」
その芝居がかった嘆きに、チユの手が小さく震えた。
ハリーの手元で、イモムシの頭が転がる。
彼の声が震えながら弾けた。
「ハグリッドを辞めさせようとしてるのか!」
マルフォイは声を落とし、唇の端で小さく笑った。
「ポッター、それもある。でもね――ほかにもいろいろ“いいこと”があってね」
彼はわざとチユの方をちらりと見やり、囁きを続けた。
「ウィーズリー、僕のイモムシを輪切りにしろ」
ロンの手がぴくりと震えた。
彼の頬は、茹でた蟹のように真っ赤に染まっている。
チユは唇をきゅっと結び、怒りが指先にまでこみ上げるのを感じた。
その時、数個先の鍋から、嫌な音がした。
「……っあ!」
ネビルの鍋が、ぼふっと煙を上げたのだ。