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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【3】

第5章 『魔法生物飼育学』



坂を下ると、森の影が濃くなる。
木々のざわめきが風に乗り、チユの耳元で不気味に囁くようだった。



チユはふと前方に目をやった。そこには、スリザリンの一団が鼻歌交じりに歩いている。
中心にいるのは、もちろんドラコ・マルフォイだ。



マルフォイがクラッブとゴイルに何かを囁くと、2人は下品な笑い声を上げた。
声は届かないが、チユにはその内容が手に取るようにわかった。


きっとハリーのことを嘲っているのだろう。


胸の奥で、ちりちりと怒りが火花を散らす。
唇をきつく結び、チユは小さく吐き捨てるように呟いた。




「ほんと、最低……」



その声は、森のざわめきにかき消され、誰にも届かなかった。



やがて、視界の先にハグリッドの小屋が現れる。
モールスキンのオーバーを羽織った巨漢が、愛犬ファングを従えて大きく手を振っていた。
ハグリッドの豪快な声が、森の不気味な空気を一瞬で吹き飛ばす。




「さあ、急げ!早く来い!」



ハグリッドの無骨な笑顔には、どこか子どものような純粋さが宿っている。
彼の瞳は期待に輝き、まるで何か素晴らしい秘密を隠しているかのようだった。



「今日はいいもんを用意したぞ!すごい授業になる!みんな来たな?よし、ついてこい!」



ハグリッドの声に押されるように、生徒たちはぞろぞろと動き出す。
しかし、彼が禁じられた森の方へ足を向けた瞬間、チユの足は思わず止まった。
暗い森の奥から漂う冷たい空気が、彼女の背筋を凍らせた。
――以前、森の中で感じた得体の知れない恐怖が、喉の奥で震える。




「まさか、本当にアラゴグなんじゃ……?」
ロンがガタガタと震え出した。



けれど、ハグリッドは森の奥へは進まず、その縁に沿って歩き出した。


チユは胸を撫で下ろし、慌てて列に戻る。
5分ほど歩いたところで、一行は広々とした放牧場のような場所へ出た。
柵だけがあるその場所には、まだ何の姿も見えなかった。



「みんな、柵の周りに集まれ!」
ハグリッドが号令をかける。



生徒たちが集まると、彼は胸を張って宣言した。
「まず最初にやることは――教科書を開くことだ!」




一瞬の沈黙。
そこへ冷たく鼻にかかった声が割り込む。



「どうやって?」



マルフォイだ。
わざとらしい調子に、取り巻きがクスクス笑う。
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