第5章 『魔法生物飼育学』
「……ああ?」
ハグリッドが眉をひそめる。
「どうやって開けばいいんですか?」
マルフォイはさらに嫌味を重ね、取り出した教科書を掲げてみせる。
それは縄でぐるぐる巻きにされ、まるで暴れ馬を押さえつけたかのようだった。
他の、生徒たちも次々と教科書を取り出すが、どの本もベルトで縛られたり、袋に押し込まれたり、金具で固定されていた。
チユもまた、革紐で固く縛った『怪物的な怪物』を抱えていた。
「……わたし、まだ噛まれた跡が消えてないのに」
袖口をめくって小声で呟くと、腕に残る小さな赤い傷がひりりと疼いた。
「だ、誰も……まだ開けなんだのか?」
ハグリッドは肩を落とし、がっくりとした声を上げた。
教室中の生徒が、しーんと首を振る。
「お前さんたち、なぜ撫でりゃよかったんだ!」
ハグリッドの声は本気で不思議そうだった。
「撫でる?」
チユは思わず首をかしげた。
自分の本を見下ろし、革紐をそっとなでてみる。
もちろん何の反応もない。
チユは目を丸くし、手にした自分の本をそっと、見つめた。
革紐の下で本がブルリと震えた気がして、思わず肩をすくめる。
「……ねえ、噛まないでよ? お願いだから、いい子でいてね……」
震える声でつぶやき、そっと手を伸ばしかけたそのとき――。
「大丈夫だよ、そんなに怖がらないで」
不意に耳に届いた低く穏やかな声に、チユは振り返った。
そこにはゼロ・グレインが立っていた。
以前よりもずっと背が伸び、肩幅も広がったゼロ。
その顔立ちは眩しいほど大人びて見えた。
一瞬、チユの胸がドクンと跳ね上がり、息が詰まる。
「ゼ、ゼロ……!」
彼の手には、なんの拘束もされていない『怪物的な怪物の本』が収まっていた。
ページの端がかすかに揺れるが、まるで飼いならされた小動物のように大人しい。
「す、すごい……そんな簡単に……?」
ゼロは片目を細め、柔らかな笑みを浮かべた。
陽光が彼の黒色の髪をきらめかせ、まるで絵画のような美しさを際立たせる。
「ほら、こうやって優しく撫でてあげるんだ」
彼は親指の腹で本の背表紙をゆっくりとなぞった。
すると、本は小さく身震いし、まるで安心したようにスッと開いた。
ページは穏やかに揺れ、牙をむく気配すらない。