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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【3】

第5章 『魔法生物飼育学』




「……ああ?」
ハグリッドが眉をひそめる。



「どうやって開けばいいんですか?」



マルフォイはさらに嫌味を重ね、取り出した教科書を掲げてみせる。



それは縄でぐるぐる巻きにされ、まるで暴れ馬を押さえつけたかのようだった。
他の、生徒たちも次々と教科書を取り出すが、どの本もベルトで縛られたり、袋に押し込まれたり、金具で固定されていた。

チユもまた、革紐で固く縛った『怪物的な怪物』を抱えていた。



「……わたし、まだ噛まれた跡が消えてないのに」
袖口をめくって小声で呟くと、腕に残る小さな赤い傷がひりりと疼いた。




「だ、誰も……まだ開けなんだのか?」
ハグリッドは肩を落とし、がっくりとした声を上げた。



教室中の生徒が、しーんと首を振る。



「お前さんたち、なぜ撫でりゃよかったんだ!」
ハグリッドの声は本気で不思議そうだった。



「撫でる?」

チユは思わず首をかしげた。
自分の本を見下ろし、革紐をそっとなでてみる。



もちろん何の反応もない。



チユは目を丸くし、手にした自分の本をそっと、見つめた。
革紐の下で本がブルリと震えた気がして、思わず肩をすくめる。



「……ねえ、噛まないでよ? お願いだから、いい子でいてね……」

震える声でつぶやき、そっと手を伸ばしかけたそのとき――。



「大丈夫だよ、そんなに怖がらないで」



不意に耳に届いた低く穏やかな声に、チユは振り返った。
そこにはゼロ・グレインが立っていた。



以前よりもずっと背が伸び、肩幅も広がったゼロ。
その顔立ちは眩しいほど大人びて見えた。

一瞬、チユの胸がドクンと跳ね上がり、息が詰まる。



「ゼ、ゼロ……!」



彼の手には、なんの拘束もされていない『怪物的な怪物の本』が収まっていた。
ページの端がかすかに揺れるが、まるで飼いならされた小動物のように大人しい。



「す、すごい……そんな簡単に……?」



ゼロは片目を細め、柔らかな笑みを浮かべた。
陽光が彼の黒色の髪をきらめかせ、まるで絵画のような美しさを際立たせる。



「ほら、こうやって優しく撫でてあげるんだ」



彼は親指の腹で本の背表紙をゆっくりとなぞった。
すると、本は小さく身震いし、まるで安心したようにスッと開いた。
ページは穏やかに揺れ、牙をむく気配すらない。
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