第5章 『魔法生物飼育学』
「たぶん、ただの野良犬よ」
ハーマイオニーは落ち着き払った声で言い放つ。
「気は確かか?」
ロンの顔色は青ざめていた。
「ハーマイオニー、もしあれが死神犬なら……それは本当に危険なんだ。僕の――僕のビリウスおじさんだって、死神犬を見て、その24時間後に……!」
「偶然よ」
ハーマイオニーはかぼちゃジュースを注ぎながら、さらりと切り捨てる。
「君、自分の言ってることがわかってるのか!」
ロンは声を荒げた。
「死神犬って言えば、魔法使いなら誰だって震え上がるんだ!それがお先真っ暗の前兆だって――」
「そういうことなのよ」
ハーマイオニーは余裕たっぷりに言葉を重ねた。
「つまり、死神犬を見たから死ぬんじゃない。死神犬を見て“死ぬかも”なんて思い込むから死ぬのよ。ハリーはここに元気に座ってるじゃない。だって、彼はそんなばかなこと考えなかったから」
ロンは、顔を真っ赤にして口をパクパクさせ、言い返そうとしたが言葉に詰まった。
ハーマイオニーは鞄をきっちり閉じ、厚い『数占い学』の教科書を取り出すと、カボチャジュースの入った水差しに立てかけた。
彼女の動きはいつも通り几帳面だったが、声には苛立ちが滲んでいた。
「『占い学』なんて、ほんとにいい加減だと思うわ。」
ハーマイオニーは教科書をパラパラめくりながら、ページを探す手を止めた。
「はっきり言って、あてずっぽうが多すぎるのよ」
「あのカップの中の死神犬は、いい加減なんかじゃなかった!」
ロンが声を荒げ、フォークを握りしめた。
「最初、羊に見えるって言ったのはロンでしょう」
ハーマイオニーの反撃は冷ややかだ。
チユは、フォークでニンジンを突きながら、目の前の騒動を眺めていた