第4章 闇を写す茶杯
次の瞬間、教室の空気が一気に張り詰めた。
「グリム――死神犬ですわ!」
トレローニー先生の声が震え、まるで舞台の女優のように劇的だった。
「墓場に取り憑く忌まわしい影……かわいそうな子。不吉な前兆、死の予告です!」
ハリーの顔がわずかに青ざめる。
チユは胸の奥がずきんと痛んだ。
つい先ほど自分が不吉を告げられたことを思い出してしまったのだ。
自分だけでなく、今度はハリーまで——。
ハーマイオニーが椅子を回り込み、毅然とした声で言った。
「私には、そんなもの死神犬には見えません!」
チユは思わず口元が緩んだ。
やっぱり、彼女は強い。
理屈で押し返すその姿は、灯りのように心を照らしてくれる。
ハリーがうつむきかけたのを見て、チユはそっと身を寄せ、小声で囁いた。
「ねえ、ハリー、気にしないでよ。茶葉が未来を決めるなんて、冗談じゃない」
言葉に自分の不安が混じっているのを感じながらも、無理に笑顔を作ってみせる。
ハリーが驚いたように顔を上げ、彼女の異色の瞳を見つめた。チユは慌てて、茶杯を手に取り、強がるように見せた。
「ほら、私のなんて……先生には羽根に見えたみたいだけとまらよく見たら猫の足跡みたいでしょ?可愛くない?」
ハリーの目がわずかに和らいだ。
その瞬間だけは、チユ自身も少しだけ救われる気がした。
だが、先生の大きな目がぎらりと光り、ハーマイオニーをにらみつけた。
「こんなことを言ってごめんあそばせ。でも、あなたにはほとんどオーラが感じられませんのよ。未来の響きへの感受性が、まるでございませんわ」
チユは唇を噛んだ。
さっき自分を慰めてくれた友だちが、いま嘲笑されているのだ。
けれど、毅然と立つハーマイオニーの横顔を見て、胸の奥が温かくなる。
シェーマスが首を傾げながらカップを覗き込み、軽い調子で言った。
「こうして見ると、死神犬に見えるな」
「でも、こっちからだとロバに見える」
生徒たちの間から、ひやりとした笑いがこぼれた。
だがチユにはまるで笑えなかった。
背中の羽根がざわざわと、意思とは関係なく逆立つように反応している。
「僕が死ぬか死なないか、はっきり決めたらいいだろ!」
ハリーが思わず声を張り上げる。