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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【3】

第4章 闇を写す茶杯


ハーマイオニーが先生にあんな口のきき方をするのを、チユは見たことがなかった。
胸がすっとした反面、トレローニー先生の大きな目が再びハリーのカップに戻ると、じわじわとした不安がまた広がる。



先生は銀の指輪で飾られた指先を震わせながら、ゆっくりとカップを回した。




「……棍棒。攻撃……あらまあ、これは幸せなカップではありませんわね」



「ぼ、僕は山高帽だと思ったけど……」
ロンがおずおずと口を挟む。



「……どくろ。行く手に危険が」
トレローニー先生の声が、薄暗い教室に重たく響いた。



チユは息を詰め、フォークを握るように自分の指を強く組んだ。
冷たいものが背筋をなぞっていく。




(やめて……そんなの聞きたくない……)



先生がもう一度カップを回した瞬間、ふいに悲鳴を上げた。
「――っ!」



教室中が凍りつく。
間の悪いことに、またしてもカチャンと陶磁器の割れる音。
ネビルが2個目のカップを落としたのだった。



トレローニー先生は空いていたひじ掛け椅子にどさりと身を沈め、胸に飾り立てた手を当てて目を閉じた。



「おお……かわいそうなお子……いいえ、言わないほうがよろしいでしょう……聞かないでちょうだい……」



「せ、先生、どういうことなんですか!」
ディーン・トーマスが声を上げる。



みんなはじりじりとハリーとロンの机へ集まり、何が映っているのか確かめようとカップを覗き込んだ。

チユも息を呑みながら一歩踏み出す。
けれど、心臓が嫌な音を立てているせいで、足取りはぎこちなかった。



「まあ、あなた……」
トレローニー先生の巨大な目が、ドラマチックに見開かれた。
「あなたには……グリムが取り憑いています」



チユの心臓が小さく跳ねた。

彼女は眉をひそめ、茶杯を手に持ったままハリーをちらりと見た。
彼の顔は硬く、額の稲妻型の傷跡が燭光に浮かんでいた。



「……何ですって?」
ハリーが低く呟き、眉を寄せた。
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