第4章 闇を写す茶杯
「子供たちよ、心を広げるのです。そして、自分の目で俗世を見透かすのです!」
トレローニー先生が薄暗がりの中で声を張り上げた。
チユは、まださっき言われた「羽根」の言葉が心に重くのしかかっていて、紅茶の香りが胸に詰まるように感じていた。
けれどハリーがカップを覗き込み、眉をひそめながら話し出すと、少しだけ気がまぎれた。
「よーし……なんだか、ゆがんだ十字架があるよ」
ハリーは『未来の霧を晴らす』を参照しながら言った。
「ということは、『試練と苦難』が君を待ち受ける……気の毒に。でも、太陽らしきものもある。これは『大いなる幸福』だ……えっと……つまり、苦しむけどすごく幸せになるってこと?」
「君、はっきり言うけど、視力検査をしてもらったほうがいいね」
ロンが真顔で言うので、チユは思わず吹き出しそうになった。
慌てて口元を押さえる。ハリーも同じで、2人は肩を震わせて笑いをこらえる。
けれど、トレローニー先生がこちらをじっと見つめてきたので、教室は一気に静まり返った。
「じゃ、僕の番だ」
ロンが気を取り直すように、ハリーのカップをじっと見つめた。
「山高帽みたいな形だな……魔法省で働くことになるのかも」
チユはくすっと笑った。
こういう冗談めいた解釈はロンらしくて、少しほっとする。
「でも、こう見ると……どんぐりに近いな。なんだこれ……『予期せぬ大金』だってさ!やったな、ハリー!ちょっと貸してくれよな」
ロンは声を弾ませてページを追い、カップをぐるぐる回す。
「こっちには……なんか動物?頭がこれで……カバかな?いや、羊か?」
ハリーがこらえきれず噴き出した瞬間、チユもつられて笑ってしまった。
だが――
「……あたくしが見てみましょう」
トレローニー先生がすうっと近づいてきて、ロンの手からすばやくカップを取り上げた。
シン、と空気が張りつめる。先生はカップをゆっくりと反時計回りに回し、じっと中を覗き込んだ。
「……隼。あなたは恐ろしい敵をお持ちね」
「でも、そんなの誰だって知ってるわ」
ハーマイオニーがわざとらしくはっきり言った。
トレローニー先生がきっ、と彼女をにらむ。
「だってそうでしょう。ハリーと『例のあの人』のことは、誰だって知ってるもの」