第4章 闇を写す茶杯
ちょうど立ち上がったネビルの腕を、トレローニーが軽やかに押さえた。
「あなた、1つ目を割ってしまったら……次はブルーの模様入りにしてくださいな」
その直後――。
カチャン!
鋭い破片の音が室内に響いた。
ネビルの手からカップがすべり落ちていた。クラスのあちこちから小さな笑い声が漏れる。
しかしトレローニーは眉1つ動かさず、ほうきとちり取りを持ってすうっと現れた。
「ブルーのにしてね。よろしいかしら……ありがとう」
ネビルは真っ赤になり、縮こまってうなずいた。
その様子を見て、チユは胸がちくりと痛んだ。
(未来が見えるなら、割らないようにしてあげたら良かったのに……)
やがてチユもハーマイオニーと組むことになり、カップを受け取った。
濃厚な香料の香りが鼻に絡みつき、息苦しいほどの暑さがまとわりつく。
カップを両手で包みながら、チユはそっとため息をついた。
「……熱い」
唇に触れただけで舌を焦がしそうな熱さに、顔をしかめる。
「3度まわして……伏せるんだっけ」
チユは先生に言われた通りにカップを傾け、皿に伏せる。
最後の一滴が滴り落ちるのを待つ。
「さあ……チユ。私のを見てみて」
促されて、チユは緊張しながらハーマイオニーのカップを覗き込んだ。
そこに浮かんでいるのは……ただの茶色いしみのような模様。
「……う、うーん……わたしには、犬の耳に見えるけど……」
自信なさげに口にすると、ハーマイオニーがきっぱりと言った。
「それなら忠誠を意味するはずよ」
チユは小さく笑って、カップをそっと返した。
その時、遠くでハリーとロンが何やら笑い合っている声が聞こえた。
「僕のカップに何が見える?」
「……ふやけた茶色いものがいっぱい」
冗談めかす声に、クラスの緊張が少しほぐれた。