第4章 闇を写す茶杯
トレローニー先生は、暖炉の前に置かれた背もたれの高いひじかけ椅子に、腰を下ろした。
「あたくしがトレローニー教授です。たぶん、これまでわたくしの姿を見たことはないでしょうね。騒がしい校内に頻繁に降りていきますと……あたくしの『心眼』が曇ってしまうので」
思いがけない宣告に、生徒たちは一瞬言葉を失った。チユも例外ではなく、ぽかんと口を開けて教授を見つめてしまう。
トレローニーはショールをふわりと整え、声を潜めて続けた。
「皆さまがお選びになったのは『占い学』魔法学の中でも最も難解な学問でございます。まずはっきり申し上げておきましょう。『眼力』をお持ちでない方に、あたくしが教えられることはほとんどございません。この学問では、書物は、あるところまでしか教えてくれませんの……」
その言葉に、ハリーとロンが目を合わせてニヤリと笑い、自然とハーマイオニーの方へ視線をやった。
案の定、彼女は驚きで目を見開いている。
書物が役に立たないと聞いて、まるで頭を小槌で叩かれたかのような顔をしていた。
チユは苦笑を浮かべつつ、指先をもじもじと握りしめる。
(書物じゃなくて……眼力。そんなもの、本当にあるのだろうか……)
トレローニーは巨大なレンズ越しの瞳をギラリと光らせ、生徒たち1人ひとりの顔を覗き込んだ。
「いかに優れた魔女や魔法使いであっても、派手な魔法に通じ、幻術に長けていても……未来の帳を見透かすことはできません。限られた者だけに授けられた、まさに『天分』なのです」
教授の視線がふいにネビルに止まった。
「そこの坊や――あなたのおばあさまはご健在?」
「げ、元気だと思います」
ネビルは小さな声で答えた。
「まあ……もしわたくしがあなたの立場であれば、そんな自信満々には言えませんわね」
エメラルド色の長いイヤリングが暖炉の火に照らされ、妖しく光る。
ネビルは青ざめてゴクリと唾を飲み込んだ。
チユは思わず身を乗り出してしまう。
「先生……そんなに怖がらせなくても……」
小さく抗議するように呟いたが、教授の耳に届いたかどうかはわからない。