第4章 闇を写す茶杯
――そして。
たどり着いた部屋は、教室とはとても思えなかった。
むしろ、屋根裏部屋と古びた紅茶専門店を無理やり掛け合わせたような、奇妙な空間だった。
小さな丸テーブルが20以上ぎゅうぎゅうに並べられ、椅子やクッションが好き勝手に置かれている。
薄暗い灯りはすべて深紅で、カーテンはぴったり閉じられ、窓の外は一切見えない。
ランプには赤いスカーフが掛けられ、部屋全体が赤黒く染まっていた。
「……あつい……」
チユは思わず自分の首元をあおいだ。
息が詰まるような熱気。
暖炉の火にかけられた銅のやかんから、強烈な香りが立ちのぼり、胸の奥にまとわりつく。
壁一面の棚には、ほこりまみれの羽根や燃え残りのろうそく、ボロボロのトランプ、水晶玉、紅茶カップ……まるで呪文の材料庫のように雑然と詰め込まれていた。
「これ……本当に教室?」
チユは小声でハーマイオニーに囁く。
だがハーマイオニーは目を輝かせ、興味津々に棚を見渡していた。
「先生はどこだろ?」
ロンが不安げに言ったその時――
「ようこそ……」
暗がりの中から、か細い声が響いた。
まるで霧の奥から届くような声に、チユはびくりと肩をすくめた。
灯りの下へと現れたのは、ひょろりと背の高い女性だった。
大きなメガネのレンズが目を何倍にも膨らませ、スパンコールを散りばめた透き通るショールをまとい、折れそうなほど細い首には鎖やビーズがじゃらじゃらと垂れている。
腕や指には隙間なく指輪や腕輪がはめ込まれ、まるで宝飾品でできた人形のようだった。
「……お、大きな虫みたい……」
チユは思わず呟き、慌てて口を押さえた。
だが横のロンは吹き出しそうになり、肩を震わせている。
「おかけなさい、あたくしの子供たちよ。さあ……」
その声に、生徒たちはおずおずと椅子やクッションに腰を下ろしていく。
チユも近くの椅子に腰を下ろしたが、クッションがふかふかすぎてずるっと沈み込んだ。
慌ててテーブルの端をつかみながら、胸の内で小さくため息をつく。
トレローニー先生は暖炉の明かりに身をさらし、両腕を広げるようにして宣言した。
「――『占い学』へ、ようこそ」
チユはその言葉に、背筋がぞくりと震えるのを感じた。
未来をのぞくという扉を、自分も今、開けてしまったのだ。