第4章 闇を写す茶杯
「俺だって別に、あの状況は嬉しくなかったけどな」
ジョージが真顔で続けた。
「あいつらは恐ろしいよなあ、なんだか体の内側を凍らせるんだ。そうだろ?」
チユは思わず身を縮め、昨夜の列車での寒気と息苦しさを思い出した。
背中に冷たい汗がにじむ。
「う……ほんと、凍えるみたいだったよ。楽しかったことや、幸せな記憶が全部、吸い取られるみたいで……」
彼女の声は小さく震え、フォークを持った手が一瞬止まった
その時、ジョージがちらりと彼女を見て、口角を上げた。
「だったら、今年も我らウィーズリーツインズがお姫様の笑顔を山ほど増やしてやるさ。吸魂鬼でも吸い取りきれないくらい、な」
軽口のように言ったが、その瞳は真剣だった。
チユの胸がどきりと跳ねる。
嬉しくて、でも少し恥ずかしくて。心の奥がじんわりと甘く疼いた。
「君たちは気を失ったりしなかったんだろう?」
ハリーの緑の瞳には、どこか自分を責めるような色が浮かんでいた。
フレッドが大げさに肩をすくめ、ニヤリと笑った。
「おいおい、ハリー、忘れろよ!吸魂鬼なんて、誰だってビビるって!俺たちだって心臓バクバクだったぜ。……まあ、ジョージはちょっと叫びそうだったけどな!」
彼はジョージを肘でつつき、テーブルに笑い声を響かせた。
ジョージがムッとした顔で反撃。
「なんだと、フレッド! 叫びそうだったのはお前だろ! チユ、こいつ、吸魂鬼見た瞬間、俺の袖つかんで震えてたんだぜ!」
チユは思わずくすっと笑い、緊張がほぐれた。
「え、ほんとに?フレッドって意外に怖がりなんだね」
彼女はいたずらっぽく笑った。
フレッドとジョージの軽快なやりとりが、チユの心の暗い影を少しずつ溶かしていく。
フレッドが大げさに胸に手を当て、芝居がかった声で言った。
「チユ、ひどいぜ! 俺たちの勇気を疑うなんて!親父が昔、仕事でアズカバンに行ったんだけど、帰ってきたときには、すっかり弱ってガタガタ震えてたんだ。あんな場所、誰だってぶっ倒れるって!」
彼の声は軽い調子だったが、アズカバンの名前にチユの背筋が再び冷えた。