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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【3】

第4章 闇を写す茶杯



翌朝、チユはまだ夢の余韻を残したまま大広間へ向かった。
昨夜、リーマスに額へ口づけられて眠った安心感は、胸の奥をやわらかく温めていた。

けれど同時に、『もっと強くならなくちゃ』という焦りも、彼女を小さく突き動かしていた。



大広間に足を踏み入れると、まず視界に飛び込んできたのは、スリザリンのテーブルを囲んで笑い声を上げる一団だった。


マルフォイが、誇張した動作で胸を押さえ、わざとらしく気絶してみせていた。周囲のスリザリン生たちは腹を抱えて笑っている。





彼女自身も吸魂鬼の冷気に体を震わせたばかりなのだ。
笑いものにする神経が信じられない。



「知らんぷりよ」
ハーマイオニーが小声で告げた。
声の硬さから、怒りを必死に抑えているのが分かる。
「相手にするだけ時間の無駄だわ」



ロンは拳を握りしめ、ハリーは眉をひそめた。



そのとき、甲高い声が響いた。
「あーら、ポッター!」


スリザリンの女子、パンジー・パーキンソンが、パグ犬のような顔をゆがめて笑う。
「吸魂鬼が来るわよ!ほら、ポッター、ううううう〜!」



また笑いが広がる。チユの手が自然とハリーのローブの裾をつかんでいた。
「あんなの、くだらないよ……」


ハリーはちらりと振り返り、小さくうなずいた。




グリフィンドールの席にどさっと腰を下ろしたハリーの隣には、ちょうどジョージが座っていた。


「3年生の新しい時間割だ」
ジョージが羊皮紙を手渡しつつ、眉を寄せる。
「ハリー、顔色が悪いぞ。何かあったのか?」



「マルフォイのやつだよ」
ロンがスリザリンのテーブルをにらみつけながら答える。



ジョージも目をやったちょうどその時、マルフォイが再び芝居がかった気絶の真似をしていた。


「ったく、あのろくでなし野郎め」
ジョージの声は落ち着いていたが、瞳には鋭い光があった。


「昨日の夜は、あんなに余裕なかったくせにな」
フレッドが、隣からにやりと笑って口を挟む。



「吸魂鬼が迫ってきた途端、俺たちのコンパートメントに駆け込んできたんだぜ。なあ、ジョージ?」

「ほとんどおもらししかけてたよな」
ジョージが肩をすくめ、軽蔑の目をスリザリンのテーブルに送る。
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